話そうとする母を奈都が慌てて止めてナースコールを押すと、主治医と加代の兄、賢司が駆け付けてきた。

「意識が戻るとは奇跡だな。」
「ええ。…皆、どんな手を使ったんだい?」

主治医に相槌をうちながら、コッソリ頼子逹に聞いてきた。

「それは後で種明かしします。先ずは秋穂さんの容態を。」
「勿論だよ。そちらの新顔のお嬢さんの事も知りたいしね。では早速、精密検査をしましょう。」

紗季に微笑みかけると、直ぐに医者の顔に戻って看護士に指示を与えている。

「ひゃぁ~。えらい男前やん。知り合いなん?」
「加代の兄さんで、賢司さんだ。たまたま縁があって、何度か秋穂さんを回診してもらっていた。坂田先生、今日は秋穂さんと会話するのは無理ですか?」
「意識不明状態でしたから、体力的に不安もありますし、検査で時間もとられるでしょう。明日の午後でしたら会話も可能ですよ。」
「それじゃ奈都。私達は一端、家に帰るぞ。必要な物があれば電話しろ。」
「分かったわ。紗季ちゃんも頼子も体を休めてね。二人共ありがとう。師匠もありがとうございました。」

病室を後にした三人はタクシーで家に向かった。紗季はずっと何かを考え込んでいる。

「紗季ちゃん。君に見せたい物があるんだ~。」

家に着くと、頼良がニコニコしながら家の裏庭へ招いた。

「なんやの?ウチに見せたい物って…」

紗季の言葉が途切れ、裏庭の一点を見つめる。そこには藁を束ねて立て掛けて板を張った、手作りの的があった。

「昨夜、親父が紗季が来た歓迎の証に的を作ろうって言い出してな。」
「紗季ちゃんも練習場所がほしいだろうと思ってね~。有り合わせの物で悪いんだけど、どうかな~?」

的を見つめたまま動かない紗季を心配そうに見ながら二人が言うと