「それで、みつきは現れたのかい?」
「ああ。予想通り、取り憑いた霊を祓おうとしていた時にな。秋穂さんがピンチなのに黙ってられないってな。」

頼子が言うと、頼良は目を細めて

「そういう人だよ。みつきは…」

そこにいた人を確認するように優しく言った。奈都がその様子を見て、一瞬辛そうに顔を背ける。

「紗季は、祓えなかったら自分に憑かせて…って言ってたが、その後はどうするつもりだったんだ?」
「そらぁ…そうなったらウチの母さんに祓ってもらうな~。意識を保つ位は出来るし。」
「紗季はあの時点でかなり消耗していたのに、それをやったら命懸けじゃないのか?」

頼子が厳しい口調で言うと、紗季が気まずい表情をする。

「自分の力を過信しない事だ。母もそれが分かったから紗季を止めた。」
「分かってるわ。敵を甘く見てたんはウチのミスや。みつきさんもあれでかなり霊力奪われてしもうた…早よ本体に戻したらんとあかんわ。ウチの失敗はウチが挽回したる。」

悔しそうな顔をしたが、自分の否を潔く認めて決意を表す。

「頼子…紗季ちゃんを責めないで。母の為に最善を尽くしてくれたのよ。」
「責めてなどいない。今、紗季に居なくなられては困るから、自分を大事にしてほしいだけだ。」
「頼子は誰に似たのか口が悪いんだよ。素直に紗季ちゃんが心配だったって言えば良いのに。」
「ほんまやな~。みつきさんと話してみたら頼子の原点が見えたけどな~。」

呑気に話す二人を睨むと、二人はわざとらしく惚けた。

「…み…つき…」

秋穂が呟いて目を開けた。

「お母さん!」

意識を取り戻した母に奈都が駆け寄る。秋穂はしばらく視線をさ迷わせてから手を握っている奈都を見た。

「奈都…?」

「お母さん、ここは病院よ。二年も意識がなかったの。今は無理に話さないほうが良いわ。」