「紗季ちゃん!アレはどうして母から離れないのかしら?」
「あかんわ…もう少しやのに…」

弓を置いて忙しなく印を結びながら、紗季は苦しそうに息をした。

「しゃぁない…一端アレをウチに憑かせて…」
『ダメよ。そんな事したらどうやって退治するの?』

みつきが光と共に現れて言った。

「母さん!離れたんじゃないのか!?」
『親友を助けるのに、ジッとなんかしてられないわ。』

当然でしょ?という顔で言うと、秋穂にまとわりつく黒い靄を引き剥がすようにして押さえつけた。

『さぁ、早く祓って頂戴!』
「みつきさんあかんで!早よソイツから離れてや!」
『ダメよ。秋穂に直ぐに憑いてしまうわ。私、何度か試したの。』

譲らないみつきも徐々に黒い靄に取り込まれそうになっている。

「奈都!親父を部屋に入れろ!」

頼子が言うと、奈都が扉に走った。

「母さん!奈都が扉を開ける直前に本体の側に戻って!」
『分かったわ!頼子、後は頼むわよ!』

扉を開けた瞬間みつきが消え、待機していた頼良を奈都が部屋に引き込んだ。
秋穂の体に戻ろうとしていた黒い靄が弾き飛ばされる。
『グァァァッ!』

「鎮まりなさい。鎮魂弦鳴弓!」

いつの間にか変身していた紗季が弾き飛ばされた靄に矢を放った。矢が命中した瞬間、靄は霧散して消える。

「…ホンマに無茶しよるわ~。親子揃って…」

額の汗を拭いながら、紗季は座り込んだ。

「最後は仕留めさせてやったろ?親父も使いようかと思ってな。」
「そらどうも、おおきに。」
「何だ?どうなったんだい?」

奈都に腕を掴まれたまま、霊の見えない頼良は不思議そうな顔をしている。
その状態に気付いた奈都がパッと手を離した。

「頼良さんのおかげで無事に済みましたわ~。」