「手順はそれで良いんだな?紗季、祓いの時は何か手伝わんで良いのか?」
「ホンマは火ぃ焚きたいんやけど、病室やと無理やしな~…弓と刀で儀式したいわ~。剣舞とかでけへん?」
「親父、直ぐに剣舞教えてくれ。親父は剣舞奉納もした事あるんだったよな?」

頼良を見ると、何やら感動しているようだ。

「あんなに剣舞を覚えるのを嫌がってた頼子が…」
「仕方あるまい。親父の剣舞も二刀流だしな。」

感動に水を差すような事を言う頼子に肩を落とす。

「…一晩で覚えるのは大変だぞ?私が出来ればやりたい位なのに無理だしな~…」

いじけてしまった頼良を

「失礼な。基本の型は出来るぞ?さっさと教えろ親父。行くぞ。」

容赦なく道場へと引き摺って行った―



翌日、秋穂の病室の個室には頼子と奈都と紗季が居た。

「みつきさんにも離れてもらったし、ほな始めよか~。」

巫女姿の紗季が弓の弦を弾いた。頼子も儀式用の正装をしている。

「思たより広くて良かったわ~。頼子、動けそうか?」
「ああ。動きはなるべく小さくまとめられるようにした。始めよう。」

刀を二本鞘から抜く。

「ほな、人払いと中の音が聞こえんように結界張るわ~。」

いくつかの印を結ぶと、空間が遮断される気配がした。
それを合図に紗季が祓いの呪文を唱え、弦を鳴らす音、頼子が舞いながら刀を打ち鳴らす音がやがて一つの音楽のように響いた。
すると秋穂の体から黒い靄のようなものが押し出されてきた。
『ウォォォ…』
その靄が唸りながら形を作りだす。

「…みつき…逃げて…ごめん…なさい…」

秋穂が呟くように言った。
『そうだ…お前は親友を見捨てたんだ。』
黒い靄が秋穂にまとわりついたまま言う。
『酷いなぁ…あの時、車で突っ込んででも助けていればなぁ?』
しゃがれた声に秋穂がうなされている。