「…親父に会えば分かる。」
「まあまあ。で、清結界に護られているが故に、お母さんの魂が家に入られへんねんな。」

ギクッと頼子と奈都が身をすくませた。やはり先程のみつきは作り物で、本人は…

「みつきさん、生きてんで?さっきのは魂だけ追い出されて、中に別のもん入れられて操られとったわ。それに普段は入院してはる奈っちゃんのお母さんの側についとるよ?」
「!!どういう事だ!?」
「頼子、落ち着いてぇな。順番に話したるから。先ず、始まりは二年前、みつきさんが失踪し、秋穗さんが意識不明になったんやろ?」

二人は黙って頷く。丁度、頼子がクーの母を助けたその日だ。

「さっき蕀が連れてた子供。見覚えないか?関係しとる筈や。」
「クーの母を殺そうとしていたのは、あの子供だ。あの日、奈都と私は父と小学生最後の春休みで、山籠り修行をしていたー」

頼子は一人、山を走っていた。すると前方から禍々しい気配がしてきたので、駆け付けた。
そこには子熊を連れた母熊と、この場には似つかわしくない程の小柄な少年が対峙していた。
初め頼子は少年が熊に襲われそうなのかと思っていたが、どうやら禍々しい気配は少年から発せられていると気付く。

「ゥガァァ~ッ!!」

母熊が必死で立ち向かっていった。このままでは逆に殺されてしまうと、咄嗟に判断した頼子は間に割って入った。

「待て!子熊を残して死んでも構わんのか!」

渇をいれると、母熊は落ち着きを取り戻したようだ。ジリジリと逃げる隙を伺い始める。

「引け!今直ぐに!」

頼子の言葉で、子熊をくわえて走り去った。

「なんだよ。折角獲物がかかったから殺してやろうと思ったのに。」

つまらなそうな声に振り返ると、少年が玩具を取り上げられたような顔をしていた。