目頭が熱い。

鼻の奥がツンとする。



「気に入ってくれたら、嬉しいけど」



精いっぱいの笑顔を貼りつける。


つきあってくれて、一緒にいてくれた人。

だめな部分をいっぱい見せただろうし、嫌な部分もいっぱいあったと思う。

だけども、ふたりで過ごした時間は、かけがえのないもので。

今でもなお色あせることのない想い出が、溢れてくる。


休日にどこかにふたりして出かけたことは、数少ない。

仕事帰りに待ちあわせて、食事に行くことが多かった。

それもだんだん回数は減っていき、私のマンションで簡単に済ませるようになった。


最近の関係はマンネリぎみで。

退屈しかけていたのも、また本音。

それでもやっぱり、愛おしいものだったのに。



受けとった鍵が、手の中で鈍い光を放つ。

見ているだけで泣けてきそうになって、必死にこらえる。

陽平の前で、メソメソと泣きだすわけにはいかない。



「なあ」



抑揚のない声が投げられる。



「何か勘違いしてないか」

「勘違い?」



何を言っているんだろう。

合鍵を返すのは、私との関係を解消するため。

それ以外に、なんの意味があるというんだろう。



「渡したいものがあんだよ」



得意げに片笑む陽平が、背広の胸ポケットを探ったかと思うと、何かを私の前に置く。




1本の、なんの変哲もない鍵。

陽平のマンションのかと思ったけど、形状が微妙に異なる。


だったら、どこの。



「同棲も考えた」



ぽつり、と陽平が言葉を継ぐ。



「でもさ、それじゃだめなんだよな」



だめって、何が。

何を、伝えようとしているんだろう。


なぜか、鼓動が勝手に加速を始める。

期待、してしまう。

だけど。



失望が、怖い。