「開けていい?」



私が顎を引いたのを確認すると。

紙袋からとりだして、陽平の手がゆっくりとラッピングをほどいていく。


キーケースを手にした陽平の目が、わずかに見開かれる。

何かに驚愕しているような表情だ。

だけれど、すぐにその目は細められる。


さっきのは、いったい……。



「ありがとう」



怪訝に思う私を気にするそぶりはなく、さらりと礼を口にする。



「4連なんだな」



キーリングのことを言っているんだろう。

それだけあれば、十分のはずだ。

そこを考慮したから。


なのに。



「たぶん、そのうちのひとつは使うことはないな」



どういうことだろう。

言葉の意味が、わからない。


真意を図りかねて混乱する私の前で、今使っているキーケースをビジネスバッグからとりだして。

その中の1本を外すと、テーブルにすっと置かれた。

いたってシンプルな鍵は、ありふれているものだ。

けど、その形には見覚えがあった。



目を見開くのは、私の番だった。


よく見慣れた形状は、私のマンションの鍵だ。

陽平に渡している合鍵にほかならない。




……そうか、わかった。

これが、陽平自身が導いた結論。


その鍵は、不要ということなんだ。

もう、終わりにするから。

今後、使用することがないから。


関係にピリオドを打つために、最後の想い出として、私が行きたがったフレンチで食事をして。

すべてはさよならを告げるための前振りで。





私たちに、この先の未来は、訪れない。