そのネクタイ。

紺地に、シルバーとラベンダーの細い斜めストライプが交互に入ったデザインは、忘れるはずがない。

私が選び、誕生日にプレゼントしたものだ。


身につけているのなんて、今までに一度も見たことがない。

どうして、それを。


私の視線に気づいた陽平がネクタイのノットに手をあて、したり顔を向ける。



「なかなか似合ってるだろ」

「私のセンスがいいからね」



素直に褒められず、茶化してしまう。

本当に、悔しいくらい、似合いすぎている。



引いてくれた椅子に腰かけると、陽平は真向かいに座る。

清潔感のある白いテーブルクロス上で、軽く手を組む陽平を眺める。

ネクタイに合わせたんだろう、スーツが同じ紺地だったことにその時に気づいた。



間もなくして、シャンパンをグラスに注いでくれる。

シュワシュワと弾ける気泡は、楽しい宴の始まりを演出するには最高のアイテムだ。

グラス同士を触れあわせるではなく、少しだけ掲げて乾杯をする。


メニューは陽平が選んだ。

前菜が運ばれてきた時、メートルが丁寧に料理の説明をしてくれる。

ふだんは気軽に足の運ぶことのないフレンチなだけあって、肩肘張っていた緊張が、やわらいだ気がした。


料理はどれもがおいしくて絶品なのに、それでいて繊細に飾られていて。

色鮮やかで、見た目にも楽しめる工夫が、随所に散りばめられている。

こういうきちんとした場ではマナー違反なのかもしれないけど、写メを撮らずにはいられない。


ポワソン、アントレと続く頃には、すっかりリラックスしていた。



「これね」



クレームブリュレをすくっていた手を止めて、バッグのそばに置いたマルチストライプ柄の紙袋を手にする。



「プレゼントなんだけど」



陽平の前におずおずと差しだす。