テレビや雑誌に頻繁にとりあげられ。

女性なら、一度は連れて行ってもらいたいと憧れるフレンチレストランだ。

あまりにも有名店になってしまったがために、同時に、予約のとれないお店として周知される。

聞くところによれば、3ヵ月先まで常に予約が埋まっている状態とか。


コンビニで買ったタウン誌に紹介されていて、陽平とふたり、私のマンションでパラパラと眺めていた時。

行ってみたいなあ、と何気なくつぶやいたことはあったけど。

そんなのを陽平が覚えているとは思えない。



本当にここでイブを過ごすというんだろうか。

感激のあまり呆然としてしまい、しきりに目をしばたたかせる私をよそに、陽平は重厚そうなドアを開け、揚々と中へ踏み入れる。



内装はシンプルでありながらも豪奢だ。

穏やかで温かみのあるオレンジ色のライトは、来訪者を招き入れ、リラックスしてもらうようにもてなす、店側の配慮なんだろう。

気おくれしそうで、とても落ち着けそうにないけど。



タキシード姿の男性が、深々とお辞儀をして出迎えてくれた。

一見、ただのサービスマンに見えた彼は、メートル・ドテルだ。


その男性が陽平に近づいてきて、名前を確認する。

陽平が軽くうなずくと、お待ちしておりました、とすぐに彼が笑顔で返す。


いったい何ヵ月前から陽平は予約していたんだろう。

いぶかりながらも、彼のあとに続く。

ほどよく絞られたクラシックの優雅な調べが心地よく響き、よく磨かれた木の床をコツコツと踏み鳴らす靴音が小気味いい。




案内された先で、またもや歓喜の雄叫びをあげたくなった。

店内の、最も奥まったそこは。



「すごい、個室じゃない! どうしたの、陽平」



はしゃぎながら、隣の陽平に声をかける。

陽平は曖昧な笑みを返すだけだ。

だけど。


そのワイシャツの襟元に気づいて、言葉を失う。



「……なんで」