「なるほど・・・。だから、三木君を連れてこないようにしたのですか」
矢野もコーヒーに口をつけた。

「そしてあの事件から、長江源俊と水沢伊秀の知名度が急に伸びています」
「それも関係あるのですか?」
「おそらく。亡くなった方を疑うのはあれなのですが、姫山さんは二人に殺されたのではないかと・・・」
「証拠はあるのですか?」
「近所の人の目撃情報がありました。男が一人、稽古にしては早い時間で出て来た。と」

「きっとそれは水沢先生なんでしょうね」
冷たく、そう呟いた。
真里が初めて見る矢野の表情だった。
しかし、次の瞬間にはいつもの矢野になっていた。

「では、長江先生と水沢先生を殺したのは誰ですか?・・・三木君とおっしゃるおつもりですか?」
真里は首を振った。
「その線も考えたのですが・・・・おそらく犯人は、三木春真と入れ替わった方です」
「入れ替わった?」

「あ、入れ替わったと言うのには語弊がありますね。おそらくその二人は入れ替わる気などなかったと思います。・・・けれど、なんらかの形で春真さんが巻き込まれて姫山さんの子供だということになった」

「その残された姫山先生の子供が復讐をしている。ということですか?」
「私はそう考えました」
「なるほど。確かに、姫山先生の子供が生きているのだとしたら、先生を殺した犯人を許さないと思うでしょうね」

そう言うと、真里と目が合った。
凛々しい目だった。

「私。助けたいんです」
「え・・・?」

その言葉に動揺したのは他ならぬ矢野だ。

「あなたのせいじゃない。あなたが背負わなくていい。だから、ご両親と春真さんの分も自分の為に生きて欲しいって」

「・・・そう、言うのですか?」
「はい」

「そうですか・・・・」