パチパチと火花が散る。


「ふ…藤波くん、乃愛は他の方に嫁がせるわ。だから姫香を頼みたいのだけど…」


「乃愛を離すつもりはありません」


「…………そう…」


乃愛…


こんな家庭に生まれて…苦しかっただろうな…。


「…乃愛の病院に戻るんで失礼します」


「「「……………」」」


乃愛…


お前の実家…俺潰しちまうかもしんねぇ…


イライラしてどうしようもない。

あんな人たちだとは思ってなかった。


乃愛が欲しくて持ちかけた提携の話…






乃愛が手に入った今…あんな人たち、どうでもいい。



ノートパソコンを携えて、乃愛の病院に車を走らせた。


~♪


ん?


着信。


誰だ?


「もしもし?」


『あぁ…恭?乃愛ちゃんが…』


乃愛が…


「乃愛がどうした」


なにか悪いことが…?


『とにかく早く来い』


「今急いでるところだ」


『………早く来ないと…間に合わないぞ』


間に…合わない…?


死ぬってことか?


「くっそ…」


アクセルを一気に踏み込んだ。


*******






『乃愛…』


ん……?

この声、は…恭先輩…?


『乃愛の敵は俺が潰します』


……………恭先輩…?


あたしの敵…?


…恭先輩に愛されてるなって…

自意識過剰かもしれないけど愛されてるなって思う。


恭先輩、あたしはまだ意識がないと思っていろんなこと話してくれるから。



早く恭先輩に抱きつきたいんだけどね。


案外、この状況を楽しんでる。


恭先輩、そろそろ来る時間かな?


早く来ないかな…

でも眠いや…。







襲いかかる睡魔に対抗せず、重いまぶたを閉じた。







バンッ!!


「乃愛ッ!」


うわ!?

ドアが大きな音を立てて開いたことと、恭先輩の声で思わず眠気が吹っ飛んだ。


「乃愛…?」


………………あれ…?


「恭、先輩…」


見えてる…声出てる…


「乃愛…?」


恭先輩は切れ長の目をまん丸にしてあたしに近づいた。


「乃愛…?目、覚めたのか?」


今のドアの音でね。


「うん」


「よか、た…」






「恭先輩」


「ん」


安心したのかベッドに倒れこんだ恭先輩。


恭先輩の髪にそっと触れてみた。

ふわふわの猫っ毛。


「顔…見せて…」


「………どした?」


「ずっと…声しか聞こえなかったから…」


顔が見たかったよ…。


「…………まさか聞いてた?」


「…心肺蘇生法は効果がありません」


あたしが笑顔で言うと、


「~~~~~…!!!/////」


悔しそうに髪の毛をくしゃくしゃっとした。






「起きてんならさっさと起きろよ」


「意識はあったのに体が寝てたんですーっ」


ベーッと舌を出すと、恭先輩はものすごい速さで…

あたしの舌を口に入れた。


「んっ…!?っ…」


突然すぎてよくわからないあたしは首を振って抵抗。


「………おとなしくしろよ」


あたしの後頭部は恭先輩の腕でしっかりホールド。


でも舌を自分の口に引っ張り返した。


「っん、は…」


ちゅ、ちゅ、とわざと音を立てる恭先輩。







苦しくなって恭先輩の肩を押すと離れた唇。


混ざり合った唾液が糸をひいた。


なんか久々ではずかしいな…


「乃愛…」


ドキッ…


恭先輩にじっと見つめられる。


「…ただいま、恭先輩」


にこっと笑うと恭先輩もにこっと笑った。


「…おせーよ」


鼻の頭をかきながら、恭先輩はあたしの頭を自分の胸に押しつけた。


「俺がどんだけ心配したと思ってんだよバーカ…」


「…ん…ごめんなさい…」


恭先輩の背中に腕をまわしてぎゅって密着。






どれだけの間、こうしたいと思っていたことか。


ヴヴヴヴヴ…


「あ」


あたしのケータイ…。


バイブするケータイに手を伸ばした手は…

恭先輩に捕獲された。


「…………俺以外を見てんじゃねーよ」


え、恭先輩こんなキャラ?


「でも…」


「暗証番号は?」


「…………1022」


「俺と同レベ」


「それがなにかー」


恭先輩が大好きだったんだもん。


ロックナンバーが好きな人の誕生日でなにが悪いのよ?






「……………ま、いーや。ケータイ見ろよ。誰からかも、どんな内容かもわかるけど。」


どうゆうこと…?


あ、メール…

お母さんからだ…。


《藤波くんと一緒なら電話して》


…恭先輩?


あたしはお母さんに電話をかけた。


『もしもし?そこに藤波くんいるの?』


久々に聞いたお母さんの声。


「います…」


『変わりなさい』


「恭先輩…」


「やっぱな」


ふっと笑ってケータイ片手に病室を出て行ってしまった。