ご飯が並べられたテーブルを見られないように藤波先輩の前に立ちふさがる。
「つ、疲れてるならお風呂沸いてるので!」
「………そうする」
藤波先輩は高校時代、好きな人がいたらしい。
あくまで噂だったけど。
だからどんなにかわいい子が告白しても頑なに断っていた。
「……………」
2人分並んだ…今日の夜ご飯。
「食べとこ…」
あたしは藤波先輩がお風呂から出てくる前に、って
急いで2人分の夜ご飯をつめこんだ。
お風呂からあがってきた藤波先輩はミネラルウォーターだけもって無言で自室に消えた。
「………………」
藤波先輩…
あたしなんかいらないんでしょ…?
いないほうが嬉しいんでしょ?
「あ」
藤波先輩のケータイ光ってる…
届けたほうがいいよね…?
……………壁紙、なんなんだろう…?
ちょっとした出来心だった。
ロック解除をタッチしてみる。
【rocknumber?】
ロックナンバー…
藤波先輩の誕生日?
「10…2…2…」
【error】
……………だめか。
それにしても…
ロック解除画面の壁紙。
誰なんだろう。
制服の女の子の後ろ姿。
しかも飛び跳ねた瞬間の。
パンツが見えそう、とか?
いやいや、まさかあの藤波先輩に限って…
この子が好きな子なのかな?
ショートカットの黒髪に、細い足で飛び跳ねた瞬間。
隣を向いてるから多分隣に友だちがいるのかな。
なんか切ないな…
あたしはずーっと…藤波先輩が好きだったから…。
「乃愛―――!」
高校一年の頃。
「どうしたの?」
「今すっごくかっこいい先輩に声かけられたの!」
「よかったね」
「岩川先輩なんだけど、隣に藤波先輩がいた!」
「よかったね」
岩川先輩も藤波先輩も…あたしからすれば同じ顔。
だって男の子に興味ないもん。
「藤波先輩かっこいいよね~」
かっこいいとかわかんない。
「乃愛、ちょっといい?」
後ろから声をかけられた。
「雅」
親友の雅だった。
雅とその子から離れ、屋上に向かった。
「興味ないならないって言えばいいじゃん」
「だって…空気読めないと思われそうじゃん…」
「そんなこと気にしな―い」
雅もあたしも男の子に興味がない。
女の子に興味があるわけでもないけど。
「あたしは乃愛がわかってくれるから他の目なんて気にしないけどなぁ」
…………あたしも雅みたいに強くなりたい…。
「あたしも強くなる…」
「頑張って、応援してる」
「ありがと」
「あたし教室戻るけど、乃愛どうする?」
「眠いからここにいる」
「そ、またね」
1人取り残された屋上。
あたしは睡魔に襲われた。
ふと目が覚めるとあたしにブレザーがかけてあった。
「誰、の…?」
大きくて、多分男の子の。
「……俺の」
突然現れた男の子に驚きながらも ブレザーを差し出した。
「あ…ありがとうございました…」
「風邪ひかなかった?」
「はい…」
「俺は藤波恭」
あ…これが噂の藤波先輩?
「俺今日はもう帰ろっと。」
「ブレザーありがとうございました」
「屋上で寝ると風邪ひくよ」
「はい…」
藤波先輩はブレザーを羽織りながら座ってるあたしを見下ろした。
「強くなくてもいいんじゃない?」
え……?
さっきの話…聞いてたってことかな…?
「無理に強くなろうなんて、絶対疲れるだけだから」
「はい…」
「じゃ、またいつか。乃愛ちゃん」
いたずらっぽく笑った藤波先輩に…心を奪われた。
―――――――…………
コンコン、とドアをノックして返事を待つ。
「……………なに」
閉まったままのドアの向こうからの返事。
「ケータイ…リビングに…」
あたしがドア越しに言うと ドアがすごい勢いで開いた。
「……………見たのか?」
「見てないです」
あたしの手からケータイをひったくられ、またドアが閉じた。
「……………」
前みたいな…優しい藤波先輩はどこ行っちゃったの…?
「…藤波先輩…見られたくないものでもあるんですか?」
勇気を振り絞って言ってみた。
………………返事なし。
だと思った。
「…壁紙…は…好きな子ですか…?」
また返事はなかった。
あたしは無言でその場を去った。
涙をお風呂で洗い流し、ダブルベッドに潜り込んだ。
染めた茶髪をもとに戻して肩より伸びた髪を切ろうかな、って考えた。
あの子は一体、誰なんだろう。
「藤波先輩…」
どうしよう、切なくなってきた…。
夢のなかで…優しい藤波先輩に会えますように。