嫌われちゃったーー…


でもこれでいいんだよね…?


あたし…間違ってないよね?



湯冷めしちゃって、部屋に戻った。


藤波先輩は寝息を立てて寝ていた。

あたしのことなんて…ほんと…どうでもいいんだね。



机の上にあった紙に書き置き。


【藤波先輩へ。


あたしは…乃愛です。わかりますか…?

突然ですが…藤波先輩。

さよならです。


旅行に行きたい、なんて言うあたしのわがまま聞いてくれてありがとうございます。





わざわざお休みまでとってくれて…すごく、嬉しかった。


今までわがまま言ったことなんてなかったんです。

家族にも、わがまま言えなかった。


だから、ありがとうございました。

藤波先輩、幸せになってください。


I pray for your happiness.


乃愛】




あなたの幸せを願っています…。


「っ…ふぇっ…っく…」


震えて字が歪む。


紙に涙が落ちる。


「ふ…藤波先輩っ…」






手紙の隣に離婚届を置いた。


「…It wants to be loved by you if a wish comes true」


もし願いが叶うならあなたに愛されたい。


藤波先輩の唇にそっとキスした。


「さよなら…恭先輩」



あたしが背を向けたとき…

藤波先輩の右目から一筋、涙がこぼれたーーー…


「乃愛……」


起きてない…よね…?


ほんとにさよなら…

あたしの指輪を外して手紙において部屋を出た…………







「げほっ…」


「わっ…乃愛…大丈夫?風邪?」


「大丈夫…ありがとう」


雅が見つけてくれたマンションに荷物があった。


雅にも胃癌のことは言ってない。

ほんとに1人で逝きたいから。


日に日に癌におかされてるのがわかる。


病院にも行ってない。



「はぁ…」


具合悪い…。


毎日ベッドに倒れてるだけの生活。


病は気から、

まさにそうだと思った。


藤波先輩は…幸せになってるのかな…?


「あーーーーー……」






会いたい…

藤波先輩に会いたい…


ポロポロ涙が落ちる。


あたしには戻る家がない。

愛される価値もない。


だからあたしはここで1人でいるしかない。


ケータイは番号もメアドも変えて連絡がこない。

変えてなくてもこないけどさ。



生きる意味が、なにもなくなった………。


なんのために生きるの?


あたしはベッドに倒れたまま意識を失ったらしい。


目が覚めたら真っ白いベッドの上にいた。


「乃愛ッ…」


「みや…び?」






涙目の雅がベッドの横の椅子に座っていた。


「ここどこ…?てゆうか雅どうして?」


「病院。あたしが遊びに行ったら意識失ってた」


………………


「え、栄養失調かな…?」


「癌なんでしょ…?乃愛…だから藤波先輩と?」


「……………そうだよ、胃癌」


「なんで言ってくれないのっ…」


「心配かけたくなかったの」


雅は…あたしが死んだら悲しむかな?


「乃ー愛ちゃんっ」


あ゛。


「綾香先生…」


怒られる。






だって顔笑ってるのに目が笑ってないもん。


「わたし…こないだ電話したよね?旦那さんつれてこいって言ったよね?」


「ごめんなさい…」


「で、旦那さんは?」


「………別れました」


「え?」


「迷惑かけたくなくて…嫌われました」


「っ…ばかっ…」


あれ…綾香先生泣いてる?


「なんで綾香先生が泣いてるんですか」


「こんな若いうちから癌患って…幸せになってもらいたかったよ…」


「大丈夫ですよ」






綾香先生が泣いたせいであたしももらい泣き。


「泣かないで…綾香先生…」


「だっ、て…」


「あたしの旦那さん…あたしのことどうでもいいんです…

だから迷惑かけたくなくてお別れしてきました」


「乃愛ちゃんっ…」


手をぎゅって握られた。


「だいぶ悪化してるけど…絶対、治そうね」


「……はい…」


はい、なんて言ったけど実際死んでも構わない。


だって死んでも誰も悲しまないでしょ?


「あたし…帰るね、また来るよ」






「ありがと、雅」


雅が帰って行くと、綾香先生がベッドに腰かけた。


「実はね」


自分の右手薬指についた婚約指輪を触りながらつぶやいた。


「実は…私、婚約者がいるの。
同じ外科医の人なんだけど…今アメリカに行ってる。」


すごく切なそう…。


「乃愛ちゃんは…旦那さんが好きだったんでしょ?」


「………あたしの片思いですよ」


藤波先輩は、あたしなんかどうでもいい。



「好きなら離れないでよ…」


綾香先生は好きなのに離れちゃったんだよね。