「乃愛の旦那様ええ奴やな!」
「……慶太うざい」
慶太はあたしの二つ上。
つまり恭と同い年!?
うっわ、なにこの雰囲気の違い!
「恭と慶太、同い年なんだね」
「まじかよ!大人っぽいな!」
「で、彼女さんは?」
「え?」
「彼女さんの電話!」
「…………シカトしてもうたわ…」
「なにやってんの!ダメじゃん!」
「だってーー…」
だってじゃないでしょ!
「てか!こんなとこにいる場合!?」
早く迎えに行かなきゃ!
「慶太!」
「けーちゃぁーん」
!?
「愛里!?」
愛里が今“けーちゃぁーん”とか言ってたけど!?
「パパがそう言えって」
ヘタレさんだって教えたのに!
「乃愛、どんまいやな」
………………恭、早く帰ってこないかな。
「ただいまー…」
「おかえりなさーい!」
恭が帰宅してすぐ。
あたしは愛里とお風呂に入っていた。
だって男同士の話でしょ?
邪魔しちゃ悪いしね?
「ママぁ、出よう?」
「うん」
お風呂から出るともう慶太はいなかった。
「慶太は?」
「彼女迎えに行ったよ」
さすが恭!
慶太説得できたんだ!
「………つーかさ」
「ん?」
「終わったよな?」
え…バレてる…?
「え…」
「愛里と一緒に風呂入ってるもんな?」
確かに!
「うん、終わったよ」
「楽しみだな」
うぅ……
「よし愛里、寝よう」
「うん、ママおやすみなさい」
うあーーーー!
愛里、置いてかないでーーっ!
「乃愛、ちょっと待って、風呂入ってくる」
「寝ちゃうよ?」
「…叩き起こすから問題ない」
叩き起こされるのはやだな。
「待ってる」
恭は急いでくれたみたいですぐお風呂から出てきた。
「………早すぎ」
「そりゃ、久々だからな」
髪の毛の先から水がぽたぽた落ちて少し火照ったほっぺが恭をさらに色っぽく見せていた。
「…俺乃愛のことすっごい好き」
「へ?」
「他の誰にも渡したくない」
「うん、行かないよ?」
「………乃愛…」
なんか嫌な予感がする。
「俺さ…」
ゴクリと喉がなった。
「…俺……」
なに?
「……ごめん、顔見ないで」
こんな弱々しい恭は初めて。
あたしを胸に押し付けた。
「ねぇ、恭……?」
「…俺……」
あたしを抱きしめる手が小刻みに震えてる。
「……arkの海外進出を、決めた」
海外進出…
「すごいことじゃん!」
「………そ?…」
「すごいよ!なんで喜ばないの!?」
「喜ぶ、か…。」
ねぇ、どうして?
どうして震えてるの?
「恭…?」
「………乃愛には、幸せになってもらいたい」
「幸せだよ?」
「……arkの海外進出と一緒に、俺も海外に渡ることにした」
……離れる、って、こと…?
「俺はarkを世界のブランドにするまで帰ってくる気はない」
「………そっ、か…」
「何年かかるかわからないんだ」
「そ、う…」
「だから…こんないつ帰ってくるかわからない男を待つのはやめろ」
え…?
「きょ、恭…それってどうゆう…」
「そのまんまだよ、俺の帰りを待つな」
それって…
「待ってちゃダメなの…?」
「ヨーロッパに、行くんだ。ヨーロッパは治安が悪い。
愛里はまだ小さいから危ない国に連れて行きたくないんだ。
だから、日本で育ってほしい」
……………あたしが愛里を育てるって、ことだね…
「でも…もし俺がいない間にいい男が…
乃愛を幸せにできる男が現れたら…」
やだ…
やだよ、そんなこと言わないで…
「愛里を母さんに任せて、そっちに行ったっていい」
やだよ…
「…っだぁ…」
「ん?」
やっと出た言葉は、すごく細かった。
やだ、って言いたいよ。
でも、arkは恭が創立した自分の会社。
妻として、精一杯応援することがあたしのつとめ。
「…行って、らっしゃい」
「乃愛…」
「頑張ってね…あたし、応援してるから…」
「………ありがとう」
で……
あたしが一番気にしてること…
「いつ、出発なの…?」
「……………明日」
明日…?
急すぎるよ…
「明日の、夜」
「明日、準備しなきゃね」
「………ごめんな、乃愛」
「大丈夫だよ…?」