下を向いて首を振る。


嘘…でしょ…?


「姫香っ…姫香っ…!」


「…乃愛…ごめん、ね…」


今さらごめんなんて!


「確かに姫香のこと嫌いだよっ!
でもねっ!姫香はあたしにとってただ1人のお姉ちゃんなんだよ!?

お願い、姫香…死なないで…!」



ごめん、なんて言うくらいなら生きてほしい!


「ねぇっ…!」


「…わたし…乃愛にお姉ちゃ…、って…ょんで、ほしかっただけな…の…」


え…?


「よ、んでくれないから…いっぱい…意地悪した、の…」





そんなっ…


言ってくれれば呼んだのに!



「…死なないで…ひめ…お姉ちゃんっ……」


「……………ありがとう…のあ…」


「お姉ちゃん…っ…」


「……乃愛…に…プレゼ…ト…」


「っ……?」


「…………ふ…ふじな…くんと…なかよく…ね…?」


「…え…?」


弱々しく指差された先には血の付いたピンクの箱。



「なに…これ…?」


「ペア…マグカップ…」


あたしと恭に……?


「お姉ちゃんのばかぁっ…あたしたちは…もう3人家族だよっ…」






「そっ…か…あいりちゃん…だっけ…」


「そうだよっ…!」


「…………ずーっと…みてるね…のあ…」



え……


「お姉ちゃんっ、お姉ちゃんっ!」


やっと仲良しになれたのにっ…




「いやぁぁぁぁぁぁあ!!!」



ピーーーーーーーー………



感情のない機械音とあたしの泣き叫ぶ声だけが、静かな病室に響いていた。











数日後ーー…


恭がひ…お姉ちゃんの為にお葬式を執り行ってくれた。



派手で賑やかなことが好きだったお姉ちゃんのために。



大きな式場、たくさんの人で賑やかに、行われた。




お姉ちゃんの性格が悪かったのはあたしに対してと、あたし関係の恭に対してだけだったらしく。


大きな式場はお姉ちゃんの急死を偲ぶ人で埋め尽くされた。



……………でも、そこに両親の姿はなかった。


「………ママ…」


ハンカチを差し出す愛里。






「ありがとう…」


きっとあたしが泣いているからだと思う。


「ぅあ!?」


あたしの隣に座る愛里が宙に浮いた。


「乃愛、愛里」


「みあちゃん!」


「雅……」


目の前にいたのは喪服で愛里を抱き上げた雅だった。



「………乃愛、ひどい顔してるよ?」


「…うん…せっかく…仲良くなれたのに…って、思って…」


「姫香さん…仲良くなれたんだ、よかったじゃん」


「お姉ちゃんっ、って呼んでほしかったんだって」







早く言ってくれればよかったのにね。


「でも最期に仲直りできただけでも救われたんじゃない?」


「…………そう…だね」


「あ、そういえば藤波先輩が探してたよ」


「え、あ、」


「愛里見てるから行ってきなよ」


「うん、ありがと」


「控え室にいると思う」


「わかった」



席を立ちあがり、あたしは控え室まで急いだ。


「すいませんっ、控え室はどこですかっ…?」


「大ホールの控え室はそこの角を曲がって左側ですよ」






ホールの人に教えてもらって走りづらいピンヒールで頑張る。


喪服なのにふわっとしててピンヒールなんだよ。


ここの曲がり角曲がって左ね!



ドンっ!


「きゃっ!」


いったーーい……


人にぶつかっちゃったよ…。


しかもなぜか…

抱きしめられてて。




「あの……」


「ん?」


まぁ…別に抱きしめられてていいんだよ?



…匂いでわかる。

これは恭だもん。


「………乃愛………」


「……ん……?」






ほらね、恭でしょ?


「乃愛…もう…大丈夫か…?」


「……うん、ありがとう…」


心配、かけちゃったのかな。


「もう大丈夫だよ」



ゆっくり恭の背中に腕を回して密着した。


「よかった…」


一番安心する、恭の匂い。


いつからこんなに安心するようになったんだろう。



「………控え室、入ろっか」


「うん…」


控え室の中に入ったらおっきいソファーとおっきいテーブルと…
おっきい鏡と…


なんかものが大きかった。







「乃愛、こっち来いよ」


ソファーに腰かけてる恭の隣にストンと座った。



「最近ちゃんと寝てないだろ?肩貸してやるから寝ろよ」


「…………」




なんだ…寝てないのバレてたんだ…。


「寝かしてもらうね」


恭に寄りかかって目を閉じた。














なんだかしっかり眠れそう…。