世間の男はそう思うだろう。
いつも涙目だし?
男を上目遣いで見るし?
よくよく考えてみるとこいつの存在は世間の男どもの理性の補助を脅かすものだと思う。
俺は対象外、だけど。
理性の保持とか、してねーし(笑)
「って…あれ、乃愛?」
目の前には空になった皿。
乃愛がいない。
「乃愛?」
「わぁ~~~!!」
この声は…
浴室から?
「どうした?」
「恭っ、見て見てっ」
タオル一枚に身を包み、飛び跳ねる彼女。
「このお風呂イルミネーションしてるっ!」
確かに湯船が紫やら青やらに光ってるけどな、
お前の格好のほうが輝いてるよ。
「ゆっくり入ろっと」
…………ゆっくり=1人?
「んじゃ、ごゆっくり」
「はーい♪」
……………俺と一緒の時よりなんだか楽しそうな件には目をつぶろう。
「はーーぁ………」
暇だな。
乃愛が出てくるまでどうしようか。
って!
やんなきゃいけないことあったじゃねーか!
時計を見ると、今7時くらい。
まぁ、こんなもんか。
パソコンをいじりながら乃愛が上がるのをしばらく待つ。
「ふーーーっ…恭っ、あがったよ!」
「おーー…」
俺も風呂に向かって、乃愛が喜んでたイルミネーションでゆっくりした。
「乃愛、寝よ」
「うん、寝よ寝よーー」
ニコニコする乃愛の隣で目を閉じた。
「っ…………」
カーテンの隙間から朝陽が入ってきて目が覚めた。
「…っふぁーー……」
あーー…
眠い。
でかい欠伸でた。
「乃愛…乃愛起きろ…」
「恭先輩?起きた?」
え?
隣にいるはずの乃愛はいなくて。
鏡の前で化粧してる乃愛が目に入った。
俺も急いで支度した。
「早く早くっ」
今日はキュロット…
そして短い…
「荷物かせ」
「自分で持てるよ」
「いいから、ほら」
無理やり取って片手を乃愛の腰にまわした。
「なんか恥ずかしいね」
「そ?」
「腰お肉あるから恥ずかしい」
「ねーよ」
腰をつまんでみても皮だけ。
これのどこが恥ずかしいのか。
「わーっ、やめてーつままないでよーー」
「はははっ」
フロントでチェックアウトして車で水族館に向かった。
「イルカいる?」
「いるだろうな」
「楽しみ楽しみ」
よくこんな笑ってられんなぁ…
「腰痛くね?」
「かなり痛い」
「俺も痛い。初めて痛くなった」
「昨日やりすぎたんだよ~」
「確かにやりすぎた」
「だからあたしだめだって言ったのに~」
「もっと声エロかったけど」
「うるさいっ」
乃愛がかわいくて仕方ない。
乃愛が幸せなら、俺も幸せ。
「恭っ」
「ん」
「あたしね、今幸せ」
こいつ…人の心読めんの?
タイミング良すぎだろ…。
「まさか数ヶ月前にはこんなになってるなんて思わなかったし」
俺は乃愛に嫌われてると思ってたしな。
「俺も思わなかった」
「ある意味両思いだね」
なんだそれ。
「嬉しくねーよ」
「だよねっ」
ん?
「乃愛、香水変えた?」
「嘘っ、なんでわかるの!?」
あれ、言ってなかったかな。
俺、匂いフェチなんだよね。
「天才だから」
「いつもはベリー系なんだけどね、今日は「splash aqua」
「え!わかる?」
「分かんねーわけないだろ」
だって
「夏の新作splash aqua
で、いつものはhigh spirits berry」
「さすが~」
俺が作ってんだから。
乃愛の香水はark。
俺はarkの社長のうえ 匂いフェチ。
さらに乃愛を溺愛。
そんな俺が、気づかないわけない。
「水族館だからsplash aquaにしてみたんだ~」
「似合ってるよ」
「ありがとぉ~」
まぁ…
ark製品は全て乃愛に合うようにデザインされてるから似合わない訳ないけど。
あ、見えた、水族館。
「乃愛、水族館あれ」
「うわ、おっきー!」
駐車場に車をとめ、水族館に入った。
splash aqua 日本語で水しぶき。
夏の水しぶきを思わせるような爽やかで涼しげな香り。
一足早く夏の新作として売り出したところ、思った通りの右肩上がりの売上。
high spirits berryは日本語ではしゃぐベリー。
若い女に人気の、ベリー系の甘すぎない香り。
どっちも乃愛によく似合う。