「わあ…!」
いきなり現れたシマウマ。
つーか、この動物園でかっ。
シマウマがいる動物園てどんなだよっ!
「すごいすごいすごーいっ!」
俺の手をぶんぶん振り回しながらシマウマのもとへダッシュ。
「恭先輩遅い!」
「俺はもう年寄りなんだよ」
「まだ26でしょ!」
心が年寄りなんだよ、心が。
こんな感じで1日走り回んのかな、このお子様。
「ライオンいるみたいっ、行こう!?」
「はーい」
やっぱり人気はライオンか。
「わーー!かっこいー!」
旦那の俺でさえ かっこいー! とはなかなか言われねーぞ!
ライオン強敵!
「見て恭先輩っ!」
「ん」
指差した先にはもちろんライオン。
子どもライオンがじゃれあってる。
「あたしも混ざりたーいっ」
俺とベッドでじゃれんのじゃ満足しねーのか。
「乃愛」
「ん?」
「キス、してもい?」
「へっ?」
「なんてな」
少しだけ口づけて頭を撫でて終わった。
「つっ、次行こうっ?」
「……………おう」
赤くなった乃愛の手を引いて強敵、ライオンのもとを去った。
俺ばっかり好きでもう嫌だ。
「決まった?」
「う~~~~…」
ここは動物園の売店。
そして目の前には唸る乃愛。
なんで唸ってるのか。
「ライオンもいいけどトラも譲れなーいっ!」
ぬいぐるみを、買おうとしてるらしい。
「両方買えよ」
「んーーー…」
ぬいぐるみを奪い取り、レジに向かう。
さっきから乃愛に対する態度が冷たくなってる気がする。
でも俺、若干切れ気味だから。
これでも優しいほう。
あーもう…イライラする!
「きょ…恭先輩、ありがと…」
「ん」
外に出ると機嫌が悪くなるのは俺の悪い癖。
本当は、俺の全てよりも大切なのにな。
大切にしてやりたいよ、まじで。
でもライオンにまで嫉妬してる俺にも腹が立つ。
……動物園になんか、来なきゃよかった。
「…………乃愛さ」
「うん?」
「…そんなに動物園が好きなら動物園にいれば」
「え………?」
あ゛ーーーーー!!
言ってしまったーーー!!
乃愛困ってるし!!
「………………」
謝らないと…。
とか思いながらも謝れず、車に乗って走り出した。
乃愛は下を向いたまま無言。
せっかくの誕生日を俺の一言で潰してしまった。
「…………恭先輩、車止めて」
は………?
「降り、る…」
「は…?」
「恭先輩に…嫌われたくない…」
泣いて…る…?
「ごめん、言いすぎた」
「…嫌い、でしょ?」
「嫌いになるわけないだろ…」
「嘘…あたしのこと嫌いでしょ?」
アクセルを踏みこんでホテルに急いだ。
「乃愛」
「なに…?」
「……ごめん」
「あたしこそごめんなさい…」
なんでだよ…。
「騒ぎすぎてたよ「俺が」
乃愛の言葉を遮って少し大きな声を被せる。
「動物に…負けてると思って」
頭にはてなマークを浮かべてる。
「だーかーらー…」
ガッと乃愛の肩を引き寄せる。
「きゃっ…?」
「……俺のこと以外、考えてんじゃねーよ」
「恭、先輩…」
「ライオンもいいけど…俺以外見んな…」
………………
返事なし。
呆れられた?
幻滅された?
「……の、あ…?」
「っや…顔見ないで…」
「なんでだよ」
自分で抱きしめておきながら、今度は乃愛の体を引き剥がす。
「~~~~~…////」
なんとも真っ赤な乃愛の顔。
「どうした?」
「嬉、しいの…っ」
…………やっぱりかわいいな。
「ホテル着いた。早くチェックイン」
「はいっ…」
乃愛の手と2人分の荷物を持って車を降りた。
「きょ、恭先輩っ!」
「ん」
「あっ、あたしっ、恭先輩しか見えてないからね!?」
………このタイミングで。
「…………お前なぁー…」
「………はい…」
「可愛すぎるんですけど」
「嘘っ?」
嘘っ?、じゃねーし!
「食っちまいたいくらいかわいーよ」
「かかかわいくないよっ」
この反応がかわいーんだよなぁ…。
「早くヤりてーー…」
部屋までの距離がもどかしい。