驚いてる恭先輩。


そりゃ驚くよね。


実家潰れて喜んでるとか。


でもあたしは昔からあの家が嫌いで嫌いで仕方なかった。


姫香も、お父さんもお母さんも。


大嫌いだった。


「あたしは…恭先輩のとこにいていいの…?」


「…………」


え、だめなのかな?


「だめなら「いいに決まってんじゃん?」


いいの……?


「つーか、先に離さないって言ったよな?」


あ……


そうだったかも。


「恭先輩」


「ん」


「大好きだよ」






目を細めて優しく笑った恭先輩。


それはもう…思わず見とれるほどかっこいい。


「…俺も大好き」


ほんの何ヶ月か前にはまさかこんなふうになれるなんて思ってなかった。


「恭先輩…あたし今、すっごく幸せ」


恭先輩に抱きつくと…恭先輩もあたしを抱きしめてくれた。



ガサッ…


「ん、これなに?」


………んなーーーー!!!


ひょいと持ち上げられた紙袋。


それは綾香先生からの退院祝い……ー!!!


中には恥ずかしい下着入り!!






「見ちゃだめっーーー!!」


「ぅわ!?」



ん…………??

わーーーーーッ!!!

勢い余って恭先輩をベッドに押し倒してしまったーーー!!!


「ごごごごめんなさ…」


「いや…大丈夫…」


あれ、紙袋は…


辺りを見まわ…


!!!!!


白いベッドの上に倒れた紙袋。


姿を見せた…恥ずかしい下着たち。



急いで手をのば…


「ひいっ!」


伸ばした手はまた捕獲された。


「きょ…」


「なに?これ」






「ぁ…う…」


きょどるあたし。


「ねぇ、これなに?」


ニヤリと悪魔の笑みを浮かべる、恭先輩。


「…し…下着です…」


「乃愛ってこんな派手だったっけ」


黒地に濃いピンクのドット柄。


「これも…乃愛エロいな?」


今度はいわゆる紐パン。


「やばい、鼻血出そう」


「変態っ…!」


綾香先生は何を買ってるんだ!


「早く帰ろーな…乃愛」


「うん」


あたしの頭をそっと撫でながら恭先輩は柔らかく笑った。






ついに迎えた退院の日。


「時々検査にこなくちゃだめだからね?」


「はーい」


白衣の綾香先生と岩川先輩が見送ってくれて、タクシーに乗り込んだ。


今日退院ってゆうのは、恭先輩にはまだ内緒。


仕事ほったらかして来そうだから、って…岩川先輩が。


早く帰りたい…。


「………お客さん、着きましたよ」


って…!!

寝ちゃってた!!


毎日病院で寝てたのにまだ寝れるのか!


「ありがとうございましたっ」


お金を払ってタクシーを下車。





ひさびさの我が家…(?)だよ!


ガチャ、と鍵を開けて中に入るとふわっと香った恭先輩の匂い。



「ふあー…」


なんか懐かしい。


「さてっ、と…」


夜ご飯作って待ってよ。


恭先輩、早く帰ってこないかなーー?



早く作って冷めちゃったらやだからソファーに座ってテレビをつけた。


「……………」


『おかえりなさい!ご飯とお風呂、どっちにします?』


『先にお前を…』


…………そうか、できるお嫁さんはご飯とお風呂どっちか聞くのか!






我ながら単純だな、と 思いつつお風呂場に向かった。


まだ6時。


恭先輩はいつ帰ってくるのかな。


スポンジでゴシゴシこする。


ガチャ…


あっ、恭先輩帰ってきた!!


「恭先輩おか…わあ!!」


ツルッ…


ゴンッ!!


…………………


いたたたた…


派手に滑って転んじゃったよ…。


「乃愛!?」


でもあたし以上にあせった様子の恭先輩。


すごい勢いでお風呂場に走ってきた。


「乃愛! どうした!?」






「今滑って転んで…」


おでこぶつけた…。


「あぁ…赤くなってる…」


あたしのおでこをさする恭先輩。


「痛いか?大丈夫?」


「大丈夫…あ」


恭先輩の体をぐいっと押して 顔を見る。


「ご飯とお風呂、どっちにしますか!」


「……え…?」


え………?


「まだ6時だけど…」


6時じゃ早い?


「………………」


せっかくいいお嫁さんになろうとしたのに…

あたしはなんて馬鹿なんだ…。


「…つーかさ」






ん?


「…退院する日くらい仕事休むのに…なんで言わねぇんだよ…」


あ。

岩川先輩の考え 大当たり。


「仕事ほったらかしちゃダメだから!」


「俺は仕事より乃愛が大事なんだよー」


あたしの頭にほっぺをすりすりしてくる もはや少年。


気持ちは嬉しいけど…


「……心配かけてごめんね」


「ん、反省しろよ」


「うん…」


「具合悪くなったらすぐ言ってな?」


「はい…」