“キミにこの唄は届いているかな?
ずっと伝えたかったんだ
今、一人でキミは誰を待っているの?

ボクは、今もキミの無くしモノを
探しているよ”

それは、とある水曜日の夜で
それは、たまたまライブハウスから聞こえてきた唄で
それは、荒んでた私を惹きつけた

深谷憂月(みたに ゆづき) 16歳 高1
夜遅く、家に帰りもしないで街をぶらぶらしていたら、近くを通りかかったライブハウスから唄が聞こえてきた。よく通る声で。
家に帰りもしないでって言っても、家に帰ったって一人なわけだけど。
いつもこの道を通るけど、こんなに何かを感じたことなんてなかった。だからかもしれないけど、私はその唄につられる様にライブハウスの中へと足を運んだ。

初めて入るライブハウスの中は薄暗いホールの真ん中にあるステージがスポットライトの光で明るくなっていて、そこで、私と同い年くらいの男の子が歌っていた。

“ボクがキミの無くしモノを見つけた時
もう一度、戻って来られる様にボクは

この唄をキミに捧ぐ”

彼は歌い終えると、同じグループらしい他の男の子達とステージ裏に下がって行った。
私は唄にこんなに惹きつけられたのが初めてで、少しの間ボーッとしていたけど、次のグループがステージに上がる前にライブハウスを出る事にした。

ライブハウスの外は、入る前と比べるとかなり暗くなっていた。
この時間帯は補導が回っているから、面倒なことになる前に近くの公園か何処かに行こうと思って、私は歩き始めた。
暗い道を歩いて、5分くらい。公園の入口が見えてくる。[夏鳴澄公園(かなずみ こうえん)]と刻まれた小さめの石碑は、私が幼かった頃と比べて少し年季が入った様に思える。
私はブランコに腰掛けて空を見上げた。星が沢山散らばる様に光っている。
彼らは、どんな思いであの唄を作ったのだろう。[ボク]っていうのはきっと彼らの事なのだと思う。[キミ]っていうのは、たぶん彼らの隣に居る筈の誰か。
「“キミにこの唄は届いているかな
ずっと伝えたかったんだ