「コーヒーの価値は香りにあると思うんだ」

若かったあたしにそんなことを教えてくれたのは、社長だったな。
確かあの時もこんな風に喫茶店に入って、ケーキを食べながらゆっくり話をしたんだった。

あの渋い社長がケーキを食べる画は、なかなかだった。


そんな風に昔のことを思い出していると、本人が登場した。

すぐにあたしを見つけると、目の前の椅子に腰を下ろした。


「アメリカンを一つと…シュークリームを二つ」

「かしこまりました」


店員が離れたのを確認してから、小さな声で笑った。


「社長も覚えていたんですね」


「今君がそうやってコーヒーを味わってるのを見て思い出したよ。
それに、疲れたときは無性に甘いものが食べたくなるしね」


本人には言えないけど、彼のこういう可愛いところが結構好きだった。