のらりくらりと会話をしていたら、いつの間にか、家に着いていた。

「ぉふぁいっはんっ」

「何ごと!?」

「いや、あんた! さっき独り暮らしって言ってたわよね!!  それが、何でこんな豪華な一軒家住んでるのよ!! そりゃそんな声も出るわよ!!」

「まあ、独り暮らしっていうのは、実質だからな」

「何!? 家族が居るのに私を家につれこもうとしたの? …………最低ね、あなた」

「俺が、お前をつれこむのは、決定事項だったのか!? それは、勘違いだ。 そんな気は無いけど、いくら無くても女に最低って言われるのは、さすがにこたえるぞ」


「最低、最低、最低、最低最低最低」

「…………ふっふっふっ、騙されやがったな。 俺は、性根からのドMなんだよ。 ああ、気持ちいい!! もっと言ってください!!  玲皆様!!!」

「……くっ、本当に最低ね!!」

「もっと、もっと!! 激しく!!」

「こいつには、何を言っても無駄なの!?」

「……無駄だ、諦めるんだな」

「それなら、策があるわ」

「今の俺には、どんな暴言も効かない」

そんな言葉を聞いた玲皆は、いきなり後ろを向いた。

バッグから何かを取りだして、頭に付ける。

何かと思えば、それは、メイド用のカチューシャだった。

「ふ、ふえっ!!、シレン様!!、どうして、こんなところにいるのですか? や、やっぱり私の体を!? そ、そうですよね。 シレンの事ですもんね。 あ!、す、すみません! 呼び捨てにしてしまって……はぅ、どうしよう?も、もう、私ってなんでこんなにだめなんだろう? ほ、本当に、な、何もできないんです。 私に出来ることなんて…………    あ!、ありました。わ、私にも出来る事が♪♪
わ、私には、こ、この体が、シレン様に捧げるための、この体が、あります。
もう、この体は、シレン様の物ですよ」

玲皆が上目使いのウル目でこんなセリフを言ってきた。

カチューシャが、可愛さを更に引き立てている。


体の中心から、とてつもない感情が沸き上がってくる。


「……しょうがない。分かった。 お前は、俺が貰ってやる」

玲皆の顔が首から、耳の先まで赤くなった。

「っんた!! あんた!!バカじゃないの、冗談に決まってるじゃない。本当にもう、勘違いしないでよね。そんな気持ちは、さらさらありませんし、シレンがMだって言うから私も、シレンを越えるMを出してやろうっていう魂胆なんだもん!!!!」

「ふっ、可愛くねえな」

パチ!!

顔の横に、玲皆の手があった。
というより、もう頬に触れていた。

「さすがに、女の子に『可愛くねえ』は、酷いんじゃなくて?」

どうやら、この手は、張り手の寸止めだったようだ。

玲皆は案外、ガラスのハートだった。

「そろそろ、本題に戻りましょう。 ……で? あなたの親御さんは?」

「今ごろ、どっかの国じゃないか?」

「ふむふむ、なるほど、子供に借金だけ残して失踪ということね!」

「目を輝かして、てんで検討外れの失礼な事を言うな」

……まさか、玲皆がそうだ、とか、なしだからな。

「俺の親は、両方とも紛争地帯とかに出掛けてボランティアしてて、地雷とか、除去してんだ」

「……なんか、私はその血筋に助けられた感じね」

「まあ、そうかもしれないな。ボランティアで息子ほっとくってなんだろな、年1位でしか、帰ってこねえしよ」

「なら、親の心配は必要ないわね」

さあ、入りましょ。と言って、玲皆は俺ん家の玄関へ近づく。

「そういや、シレン、いい忘れてたことがあったわ。私ね、陰陽師の家系なの♪」

「おんみょうじ?」

「悪霊とか、何か変な物を祓う役職よ」

「悪霊…………霊っておい!!」

俺は、走って玲皆に駆け寄るが、時すでに遅し、玲皆はもう、ドアに手をかけていた。

「おっじゃましまっす~~」

ドアを開けると…………

「あ、レンレン。おかえり~~。 ってあれ? おんにゃの子の声がするよ♪」

廊下に俺と同い年くらいの、女の子が玄関に出てきた。

その女の子は、どこか不自然だった。
不自然どころではない。もう、自然のものでさえ無かった。

何故なら彼女の体は、玄関に自然と現れたからであり、何も無いところから出てきたからである。

まるで、幽霊の様に、霊の様に。

……俺は、肩をすくめ、外人のように首を振った。