女の子は、
私に気づき微笑んで小さくお辞儀した。



そのけな気さに、
私の情けなさが際立って、
ものすごく恥ずかしい気持ちになった。




私は唇をかみ締めて、
彼女の横を通りすぎた。



黙って。
何て最悪な女だろう。




鯨の事を大切に思う人なんて五万といる。

私が特別になろうなんて、ありえない話だったんだ。




階段を駆け下り、私は無我夢中で走った。



陸橋を上る。



こういう時、涙が出ればいいのに。

ここまで来たらベタな悲劇のヒロインになってしまいたい。



そうしたら、
こんなに自分のことを情けないって思わなくてもいいかもしれない。




階段を上りきり、思わずしゃがみ込んだ。
そして、あの写真を取り出す。





アパートの二階。
鯨の部屋の窓から、陸橋でたたずんでいる私を撮った写真。





本当に、いつ撮ったんだろう。

ファインダー越しに、鯨が私を見ていた。




ただ、暇つぶしで撮ったのかもしれない。

偶然見かけておもしろがって撮っただけかもしれない。




でも、鯨が私を見てくれていたという事実の証明だ。