ただいつもの様に隣に行くだけなのに、
変な緊張が体を走る。



鯨の部屋の前に立ち、ドアをノックした。

チャイムはこの前、電池が切れて鳴らなくなっていたからだ。



「鯨?」


ノックしても返事がないので、もう一度ノックした。


「鯨―」



でも、
それと同時に階段を誰かが上ってくる音がした。




ギシギシ軋む、ボロい階段。
私は思わずその足音に耳を澄ます。



顔を出したのは、白いニット帽子の女の子。

ふいに目が合う。




見た事ある。この子。
私と同じ学年だ。


昔から勘のいい私はすぐに分かった。




鯨に用があるんだ。

鯨に会いにきたんだ。





“人肌恋しくなんじゃん”

“誰かいないの?”

“さぁ~?”