「寒~」
大学の帰り道。
殺風景な裏通り。
路上に放置されている
少し錆びたワインレッドの自転車が、
風でカタカタ揺れている。
冷たい風が吹き付けて、耳が切れそうだ。
私は、この前買ったお気に入りの
真っ白いコートの襟をピンと立てた。
最近はなるべく遅い時間の講義を
履修するようになって、
夕飯は大学で食べてくる事が多くなった。
ああ、こんな季節は心まで寒くなるもんだ。
ひとりもんの、切実な願い。
「あ~…温もりが欲しい」
隣で代弁するように鯨が情けない声を出した。
「何それ」
「こうも寒いと、人肌恋しくなんじゃん。おーさぶー」
「誰かいないの?」
「さぁ~?」
む。
私は油断している鯨の黒い手袋の片方を、ひょいっと引っこ抜いた。