静まり返った邸の一室で、幸守は幸せだった時を思い出していた。

頬を撫でる心地よい風に誘われるように、幸守は庭へと視線を向ける。

丹精込めて育てられた庭木や草花。

陽の光を浴びてキラキラと輝く大きな池。

その中央に架けられた石造りの橋。

幼い頃は、その橋の上で、よく鯉に餌をやった。

そしてその傍らには、いつも優しく微笑む母がいた。

幸せだった。

そしてその幸せはずっと続くものだと、信じて疑わなかった。

母がこの世を去るまでは…。