広い座敷に、張り詰めた空気が流れていた。

「今…何と…?」

必死に平静を保とうとしていた幸守だが、その言葉はかすかに震えていた。

「今一度申し上げます。幸守様におかれましては、急ぎ邸に戻られよ…とのお館様の命に御座います」

淡々とした男の言葉が、幸守の耳をすり抜けていった。

幸守はしばらくの間視線を宙に漂わせると、ゆっくりと眼を閉じ、直後にカッと見開いた。

「父上の使者と聞いているが、一体何の冗談だ!?」

笑みを浮かべながら、幸守は悪意に満ちた瞳で男を見据えた。

しかし、男は幸守の態度に動じる風もなく、幸守の瞳をまっすぐに見つめた。

「全ては真実に御座います。一刻も早い御出立の御準備を…」

「ふざけるなっ!今更何の用か知らんが、俺の方には戻る必要など有りはしない!」

淡々とした男の言葉を遮って、幸守は激しい怒りを露にした。