鏡ごしに映ったのは、初老の男性。
頭は、そう、スキンヘッドで、
丸縁の眼鏡をかけている。
かなり厳つい顔つきだ。
背後からいきなり声をかけられたので、
危うく悲鳴をあげるところだった。
「すみません。…おはようございます」
男性の名前は、明石 林蔵(アカシ リンゾウ)。
この家の主で、美波はここに住まわせてもらっている。
養子などといった関係ではなく本当に居候。
洗面台からどくと、林蔵は無言のまま顔を洗い始めた。
気難しい性格ゆえ、
未だ美波はこの人の笑っているところを見たことがない。
4年も一緒に生活していて、だ。
それに正直美波は、この人があまり好きではなかった。
いつもしかめ面をしていて、不機嫌そうで口数も少なく会話も成り立たない。