少し迷いがあるような紗綾の声が聞こえた。

東京から帰ってきてから紗綾とはあまりゆっくりと話す機会がなかった。

帰る前は紗綾の様子が少しおかしいのが気にかかっていたが、こっちに戻ってからは特に変わったところは見受けられなかったので、そのままにしていた。

「どうぞ」

その言葉を合図に、ソロソロとドアが開くと躊躇いがちに紗綾が部屋に入ってきた。

伏し目がちのせいか、長い睫が作る影に何とも落ち着かない気分になる。

紗綾は、俺とは少し距離を置いて腰を下ろすと、俯いてしまう。そのまま、時が過ぎていく。

「どうした?」

なかなか話を切り出さない紗綾を促す言葉をかけると、その肩がピクリと跳ねるように動いた。

ゆっくりと視線を上げてこちらを見るその瞳には、まだ迷いの色が浮かんでいるようだった。

一度口を開きかけて、また閉じてしまう。

それでも、根気よく話し出すのを待っていると、やっと決心がついたのか大きく一度息を吐いてから話し出した。

「結界の張りなおし、明後日行うって聞いたんだけど、私にも何か手伝わせて」