「あれ…?
なぜ私は、犬を相手にこんな事を話しているんだろう。
何となく、拗ねた目が大樹に似ていたからかな?」
その時――
目の前の自動ドアが開き、聞き覚えのある声がした。
「母さん、母さん!!」
兄だ。
母親はここまで、兄に連れてきてもらったらしい。
「ここよ、ここ」
「佐倉さんが、そろそろ帰るらしいよ。
こんな所で長々と、何をしているんだよ?」
「そう、分かったわ。
いえね…
佐倉さんの犬が、何となく大樹に似ていたからお話ししていたのよ」
母親はサッと立ち上がると俺の方を向き、今まで見た事もない様な優しい笑顔を見せて手を振った。
そしてそのまま、自動ドアの奥へと消えて行った…
兄に対しても、母親の高圧的な態度はすっかり影を潜めていた。
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