菜紀は傘を開き、湿った土の臭いがする歩き馴れた道を歩いている。
菜紀の予想通り、家を出てからすぐに雨が降り出した。
菜紀は少し俯きながら歩いてるせいで、母親譲りの整っている顔を髪が隠してしまっている。
しかし、彼女はそんな事は気にも留めずに歩き続ける。
ふと、微かに自転車のベルの音が聞こえた。
音のした方向を見上げると、菜紀の学校の制服を着た男子生徒が傘を開かず、自転車を押しながらこっちに向かって来る。
その男子生徒は菜紀が知っている人物だった。
「菜紀、おはよう」
彼は眼鏡を押し上げながら微笑んだ。
「おはよう、びしょ濡れだね」
菜紀は幼なじみの片瀬 真に苦笑いをした。
「真、傘持ってないの?」
「ああ。天気予報だと晴れだったし、雨が降っても小雨だと思ったら、この有様だよ」
彼は少し大袈裟に困った顔をしたので、彼の整った顔が崩れた。
「じゃあさぁ、私の傘の中に入る?」
「ああ、頼むよ」
真は菜紀の傘の中にゆっくりと入って、少し恥ずかしそうにはにかんだ。
「相合い傘だな」
菜紀は真を軽く小突いた。
「菜紀。もしかして、照れてる?」
「馬鹿、そんな事言うなら入れてやんない」
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