「えーっと…?」
どう考えても見覚えのないひとたち。
「伊藤さんって…
中村くんと付き合ってるの?」
は?
突然、なに?
付き合ってる?
中村くんと私?
「中村くんのこと好きなの?」
どうしてそんなこと聞くの?
いきなり、
そんなこと聞かれても。
えっと、
私の気持ち的には彼のことが好きってのは…
それは…まあそうだけど。
でも付き合ってるとか、
そんなんじゃなくて。
いや、
それより。
「どうしてそんなこと聞くの?」
私は彼女たちに聞き返す。
すると3人の女の子たちは顔を合わせて、
こそこそ少し話したあとに答えた。
「私、中村くんのこと、
好きなんです」
え?
「だから、伊藤さんと彼が付き合ってるのか知りたくて…」
「……」
私は彼女のあまりにもストレートな言い方にびっくりして戸惑ってしまう。
…あ、ああ。
そ…そうなんだ。
何も答えない私に別の彼女が言った。
「付き合ってないのね?」
嬉しそうな顔。
そしてもうひとりが続ける。
「じゃあ、
告ってもいいってことなんだ!」
え!
それはちょっと…。
困る…かも。
「あの、それは…」
3人で手を取っても喜んでいる彼女たちに私は声をかける。
ちょっと、待ってよ、自分。
どうして?
止めてって言うつもり?
でも。
これまでのこと振り返ったって。
中村くんと私の間には何もない。
だから
彼女たちに止めてっていう権利もない。
今までなんだかややこしい、
誤解するようなことがあったりしたかもしれないけど。
それらを外して冷静に考えると。
ああ、そっか、
これは私の片想いだったんだ。
痛感。
結局、
私はあれから更衣室へ行くこともできず、
授業が終わるまで体操服で過ごすことになってしまった。
それにしても…。
あの女の子たちの事が気になって仕方ない。
中村くん、
いつ告られるんだろう。
告られたら教えてね、
ってそんなことって普通は言っちゃダメだよね。
中村くんと私って付き合ってるとか
恋人同士とかじゃないもん。
でも知りたい。
なんとなく言ってみようか。
いやー、やっぱダメでしょ。
はあー。
ため息ひとつ。
これから毎日、
ウニウニして、
何も聞けずに一日が終わるのか、
なんて思う。
…っと、
それどころじゃなかった。
私は告白するとか、しないとかで、
すっかり忘れていた、
佐々木先輩のメモを由美子に渡そうと終礼前に彼女の席に行く。
「だからね、
ちゃんと、渡したから。
連絡するんだよ?」
いいなあ、
これで由美子は両想いになるんだ。
羨ましくて仕方ない。
「うん…」
でも。
なんとなく乗り気じゃない返事に感じたのは気のせい?
どうして?
「…ねえ、由美子?
佐々木先輩からなんだよ?
もっと喜ばなきゃ」
私は明るい声で彼女の肩を叩く。
「うん、そうだね。
ありがとう」
笑って答えた彼女だけど。
でも
彼女の声のトーンは…。
佐々木先輩と由美子、
なにかあったのだろうか。
「ねえ、由美子…」
どうしたのか聞こうとしたとき、
教室のドアが勢いよく開いて先生が教室に入ってきた。
「はいはい、席について?
終礼始めますよ!」
みんなガタガタと自分の席に戻る中、
私も同じように席に戻る。
そして、
席に戻れば。
中村くん。
「なに?」
「え?あっ、なんでもないよっ」
私は両手を振って慌てて答える。
はー…。
なんか、
ためいき出てしまう。
今の私って考えることがいっぱいすぎる。
私の脳みそじゃ足りない!
あーっ、もう。
落ち着いて、
ひとつづつ、解決していこうか。
うん。
先生がいろんな連絡を話しているけれど、
頭の中は他のこと、
考えてる。
そして今日も1日が終わり、
クラブ準備してるひとや、
帰り支度してるひと。
うーん。
こんな賑やかな中、
どさくさに紛れて告白されたら教えてね、
って言ってみても適当に誤魔化せる?
ならば。
言ってみる。
言う?
言えば。
言うとき。
言え!
なに、五段活用してんの!
「えーっと!中村くん、
あのね、あのー…
あー……」
う。
ダメだ。
言えない。
だいたい私が話しかけたのにも気づいてない様子。
でも
言ったところで
どうして?
って言われたらなんて答えればいい?
うー。
うじうじベチャベチャ考えるのは性に合ってないってはずなのに。
なんなの、
このテイタラク。
何気にじーっと中村くんを見る。
っていうか、
見惚れる。
「今日もクラブか?」
急に中村くんがこちらに顔を向けて聞いてくる。
「え?あ、うん」
もう、
相変わらずの悔しいくらいの整った顔。
美人は3日で飽きる、
なんて言うけどそれを美男に置き換えたとしても。
私は中村くんに飽きることはない。
それは絶対的に自信がある。
「…山本のこと、
注意しやれよ?」
へ?
由美子?
由美子がどうしたの?
どうして突然、
そんなこと言うの?
もしかしてさっきの昼休みの一瞬でふたりの間に何かあった、
とか?
まさかー。
それはないって。
だって由美子には佐々木先輩が…。
「…ヒロコは面倒じゃないか?」
「へ?
なにが?」
「いつもそんなわけわからないこと、
考えてドツボにハマってさ」
む。
なによ。
私だって好きで考えて込んでるんじゃないんだから。
「言っとくけど。
私だって元々はこんなんじゃなかったんだから。
もっと楽観的な人間で…」
こんななったのは…。
私の勇気なさ…、
違ーう!
はっきりとしない中村くんの…。
「俺のせい?」
なに、その今更って顔。
「んまあっ!
しらばっくれちゃって!」
ん?
自分のそのおばさんみたいな言い方がなんか可笑しくて笑う。