案の定、和泉は今日一番の不機嫌顔を向けてきた。


「何でって」


これはいつも女に使う技。


俺は片手で和泉の顎を持ち上げ、一瞬のうちに唇を奪った。

思ったより柔らかいな。


男にキスするのに抵抗ないのかって?

ないね。
俺にとってキスは挨拶の一つ。


好きじゃなくても平気で出来る。



「キスするために決まってるだろ?」



唇を離して、至近距離で笑ってやった。

「…和泉?」


和泉は俺の双眸を見つめたまま固まっている。


「おーい、和泉ー?」



肩を揺すってやると、次の瞬間に俺は勢い良く突き飛ばされた。



「痛っ…何すんだよ!」
「そ、それはこっちのセリフだ!!この……変態野郎!!」
「なっ………って、おい!!」



顔を真っ赤に染めて、和泉は部屋から出て行った。



あんなに動揺するとは…。

ちょっとからかうつもりでやったんだけどな…。

やりすぎたか?

もしかしてファースト?


……まさかな。
この歳でそれはねーだろ。


部屋に残された俺は、一人ぐるぐると和泉 景について考えていた。