俺が可奈にじっくり搾られている頃の隣町。


「やっぱりいなかったなぁ。何度かみた気がすんのに」


そう声をあげる怜。


気付けば周りはすっかり暗くなっていた。

しぶしぶと帰りの電車に乗ろうとした時、見覚えのある顔が視界に飛び込んだ。


「サクラ?」

その声に気付いたのか、彼女は怜の顔をみた。


「誰でしたっけ?」


新喜劇並のヅッコケをかます怜。


“俺だよ、俺”という自分アピールをよそに、サクラは首を横に傾けたままだった。


しだいにはっきりしていく記憶に、彼女は少しだけ目を見開いた。


「もしかして怜…君?」


サクラは中学生の時やたらうるさかった男を思い出した。


「今日何してたの?」

怜は訊いた。
彼女の口からは小さな女の子の話が出てきた。


怜は思わず食らいついた。


しばらくして。


質問攻めをくらったサクラはぐったりとした様子だった。


特に話題のなくなった二人は、ただ揺れる電車の中でちらちらと見える町の光を眺めていた。