逃げた花嫁 21世紀編

「落ち着いて寝れないなら…和室に布団を敷きます。ねっそうしましょ!」


「……わかった」


渋々承知してくださいました。


「私、布団を敷いときますから竹君さん先にお風呂に入って下さい。」

ふて腐れながら「俺1人でか…?」


「私が一緒に入ったら布団を敷いてないから寝る場所はあの部屋になりますがいいですか?」


一緒にお風呂に入ったらどうなるか予想はつく………。


「………入ってくる」

こちらも渋々承知してくださいました。


「ふぅぅ 疲れた…。
明日のためにパックするつもりだったのに…〇井君~~。」


{「「華―シャンプーがきれてるぞ!」」}

「はぁ―上様には敵わない…。」


{「「華――!」」}




「明日ちゃ―ちゃんの分まで頑張るね。
わざわざ電話ありがとね」


布団を敷いているとちゃ―ちゃんから電話があった。


元々、明日の撮影はちゃ―ちゃんが出るはずだった。
ちゃ―ちゃんの妊娠がわかり私が代役で出ることになった。

…………………………

「早く出てこいよ!」と竹君さんに言われながらも湯舟に浸かりパックをしてる。

「十代の肌には敵わないよね…。
十代かぁ…ちゃ―ちゃんはママになるのよね。
私はママになれるのかな……?」


歴史では私はママになれない…………。


お風呂から上がると部屋の中がシ―ンとしてた。


「竹君さん?」和室を覗きながらリビングに行くと竹君さんがソファーに寝そべり気持ち良さそうに寝息をたて眠っていた。


「フフ 待ちくたびれちゃったのね。
ククッ‥竹君さんの寝顔って子供みたい」

子供かぁ…いずれ生まれてくる竹君さんの息子達もこんな顔してるのかな‥。


「1人でいいから私も竹君さんの子供が産みたいな……だめだよね」


「駄目なはずないだろ!!」


「えっ竹君さん起きていたんですか?」


ソファーからゆっくり起き上がる竹君さん。

「はぁ華…お前はかなり誤解してるようだな」


前髪をかき上げながらため息をつく竹君さん。


「誤解ですか?」


「そうだ。大きな誤解だ!」


竹君さんの口ぶりは呆れているが表情は目を細めて優しく愛しいそうに私を見つめていた。
竹君さんが私を抱き寄せ膝の上に乗せた。


竹君さんが額を私の額につけ、言い聞かせるように言う。


「華 俺の妻は21世紀も17世紀もお前だけだ。」


「…竹君さん……今さら何を言ってるんですか?」


私の頬や首筋に唇を這わせてる竹君さんの動きがピタッと止まりゆっくり顔を上げ私を見る。


キョトンとした顔の竹君さん。


「華…何が言いたい?」


「はぁ…アラブの王様じゃないんですから将軍様の妻が一人なことぐらい私でも知ってます。」


側室は今で言う愛人みたいな存在。


家光には5人前後の側室がいたはず。


21世紀の日本とスイスで生まれ育った私には理解出来ないし受け難い。


「はぁぁ―…華…お前なぁ……。」


竹君さんが大きく溜め息をつき頭を抱えた。




「うぅ…わわたし…は竹君…うぅぅ…さん…大好きです。
だけど… 夫に大勢の…あい…愛人がいるなんて堪えられない!うぅぅ……。」


私も竹君さんへ想いの丈を曝けだせた。


「クククッ…アハハ…華…お前…」


竹君さんの笑いスイッチが急に入り私を抱きしめた。


「何が可笑しいのよ!私がこんなに…こんなに…うぅっ…たけきのばかぁ―!え~~ん」

「華 安心しろ。俺は側室は持たない。
だから泣くな。」


竹君さんが私を慰めるように頭を撫でながら耳元で囁いた。


「へっ?」


涙を拭きながら竹君さんの顔を見る。






「歴史で俺は両親に疎んじられ乳母の春日局に育てらたとなってるよな?」


「はい 将軍後継問題で弟と対立して最後は弟…国君を切腹に追い込みます。」


DVDや本を見て知った!


「華、実際の俺は両親や国君との仲はどうだ?」


「どうだって?…普通ていうか仲の良い家族だと思います」


秀おじさんも江代おばさんも竹君さんを疎んじるどころか長男で後継ぎの竹君さんに頼ってる感があるくらい。

国君もたまに毒を吐くけど頼れる兄、上司と竹君さんを尊敬してる。


竹君さんもやんちゃな弟にハラハラさせられながらも国君を信頼してる。


春日局の福子さんにいたっては『末っ子の国君様が可愛くて仕方がない』と言っている。

もちろん江代おばさんと福子さんの仲も良好で福子さんに絶対の信頼を寄せてる。


「なんか…歴史と違う…。」


「フフやっと…気づいたな」




「フッ‥華が知ってる俺達家族が史実ということだ」


史実‥歴史上の事実。

「なんであんな歴史を‥骨肉の争いなんて‥‥」


仲の悪い家族のふりなんて‥‥‥やっぱり私には理解出来ない。


私の強張った顔をほぐすかのように竹君さんの両手が私の頬を優しく包んだ。


「華‥。俺の話しを聞いて」


」「竹君さん‥?」


そこには悲しく切ない表情の竹君さんがいた。




「俺達家族が詐るのは戦国の世を終わらせるためだ!」



「戦国の世を終わらせる?」



「そうだ。終わらせるためだ!!」



竹君さんは真っすぐな揺るぎのない声で言った。



戦国時代‥‥。
この国で人々が戦に明け暮れた100年。



勢力争い‥戦国大名達がそれぞれの領地を武力で奪い合う。



規則や秩序もない。
勝者が正義になる弱肉強食の世の中。



この時代に幕をおろした人物が‥…。



私の曾祖父で竹君さんの祖父………。



江戸幕府 初代将軍の

徳川家康。