花火大会は夕方からなので、それまでにマフィンを焼いた。ささやかすぎるけれど、きょうは本城くんの誕生日だから、そのお祝いに。
本当はいろいろと迷ったのだけれど。よく考えたらわたしって彼の好みとか全然知らなくて、かたちが残るものって、なにをあげればいいのか分からなくって。
だからお菓子をあげることにした。買ったものだと少し味気ない気がしたから、手作りにしてみた。
でもこれってちょっと重たいかも、なんて、焼きあがったマフィンを眺めながら思う。気持ち悪いって思われたらどうしよう。
それでも手ぶらよりはきっとましだろうと、結局マフィンのラッピングを終えて、お母さんに浴衣を着付けてもらって。髪もきれいにまとめてもらった。きょうは少しだけお化粧をした。
自分でも分かる。きっとわたし、すごく浮かれている。
からん、ころん。地面を蹴る下駄の音が心地いい。
本城くんはうちまで迎えに来てくれると言ったけれど、さすがに申し訳なくて、駅で待ち合わせることにしてもらった。
本当に、どこまで優しいひとなんだろう。
「――あ、本城くん!」
駅前の時計台の下。彼はきょうも圧倒的かっこよさを身にまとって、そこに立っていた。
「ごめんね、きょうもわたしのほうが遅かった……」
「……あ」
「えっ?」
「あ、いや……その、びっくりした」
声をかけるなりわたしのほうを向いた瞳は、なぜか一瞬で逸らされて、彼は口元を右手で覆って。なんとなく赤いように見える頬は夕陽のせいだろうか、……それとも。
「……浴衣、似合ってる、な」
「ええっ」
もう一度目が合う。本城くんが恥ずかしそうに眉を下げて笑うので、わたしはどんな顔をすればいいのか分からないよ。