なんとなくそのままの流れで、それぞれがミヨちゃんに挨拶をした。えっちゃんとちーくんはなぜかあまり機嫌が良さそうじゃなかった。
でも、えっちゃんはさっきあんなことを言っていたし、ちーくんはこう見えて人見知りだし。しょうがないのかな。
「あ……わたし、安西小町っていいます」
声が震えてしまう。なんとなく、ミヨちゃんの隣に立つ本城くんの顔は見れなかった。
そのときやっと、まるで当たり前みたいに隣どうしにいるふたりに気付いて、また嫌な気持ちがこみ上がる。
それでも、そんなわたしにも、彼女はにこっと笑いかけてくれた。花のようにきれいでかわいらしい、完璧な笑顔だ。
「小町ちゃん? えーすっごいかわいい名前ー!」
「ええっ」
「名前だけじゃなくてお顔も仕草もしゃべり方も! 全部かわいいー! 仲良くしてね、小町ちゃん。ハグー」
車椅子に腰かけたまま彼女が両腕を伸ばしてくるので、思わず応えるようにぎゅっとしてしまった。どきどきする。女の子と言えど、初対面のひととこんなことをするなんて。
ミヨちゃんの首元からはなんだか甘い香りがした。ああ、たぶんいまわたしすごく汗くさいのに。恥ずかしいよ。
「いいなー、なっちゃん。こんなに素敵なひとたちと高校生活過ごしてるなんてずるい」
数秒のハグを終えて、わたしとミヨちゃんとのあいだに距離ができるなり、彼女はまた本城くんを見上げた。彼は困ったようにため息をついて、車椅子の持ち手を握った。
「こら、もういいだろ。みんな困ってるし帰るぞ」
「えー。なっちゃんばっかりずるいから、みんな美夜とも仲良くしてね! お願いしまーすっ」
ごめん、みんなきょうはありがとう、と。眉を下げて笑ってみせた彼の口元からは、最後まで八重歯が見えなかった。
やっぱり当然のことのようにふたりで帰っていくその姿を見て、またどうしようもなく不安になる。
ああ、どうしよう。本城くんにあんなにかわいい幼なじみがいた。衝撃の新事実だ。
……どうしよう。もし、本城くんが、ミヨちゃんを好きだったら。