「――なっちゃん!」
その声が降ってきたのは、まさにそのときだった。同時に目の前の本城くんがびくっと背筋を伸ばした。
正直、彼のその反応の意味がまったく分からなかった。
でも、本城くんの名前が『夏生』だということを思い出して、『なっちゃん』とはその愛称だということを、なんとなく理解して。
そのころにはもう、彼は声のほうを振り向いていた。
「……美夜(みよ)。びっくりした」
「だってなっちゃん、全然美夜のとこ来てくれないんだもん! 待ってたのに!」
「ごめん、怒んなよ」
言うなり、彼が客席の階段を上っていく。その先でぷりぷり頬をふくらませていたのは、車椅子にちょこんと座っている、お人形さんみたいにかわいらしい女の子だった。
そんな子が、傍にやって来た本城くんを見上げるなり、口をとがらせて怒る。
「まだメダルと賞状見せてもらってないんですけどっ」
「あー、ごめん。鞄のなかだ」
「えー!? いつもはいちばんに美夜のところに持ってきてくれるじゃん!」
「ごめんって。帰ってからちゃんと見せるから」
なんだか親密そうな雰囲気。どういう関係なのかな。
もしかして彼女が例の妹さんなんだろうか。京都のときストラップを選んだから、よく覚えている。