やがてすべての競技が終わり、表彰式も終わって、客席からは徐々に人が消えていった。そのころにはわたしの涙もすっかり止まっていた。

本城くんが現れたのは、大会が終わってから約30分後のこと。制服に着替えての登場だったのでなんだか拍子抜けだ。

みんなが次々と降らせるお祝いの言葉や褒め言葉を聞いて、彼は眉を下げて「ありがとう」と笑う。でも、照れながらそれに答える彼に、わたしだけはどうしても声をかけることができなかった。

どうしよう。だって、タイミングが分からないよ。


「――安西さん」


それなのに、そんなわたしに、まさか本城くんのほうから声をかけてくれるなんて。

その低い声に突然呼ばれたことに驚き、まばたきを繰り返すしかないわたしを見て、彼はちょっと首をかしげながら笑った。


「優勝はできなかったけど、更新したよ、自己ベスト」

「えっ?」

「13分47秒36でした。1秒以上も更新できた。あはは、すげー」


きょうも本城くんはさわやかに笑うけれど。わたしはちっとも笑えないし、むしろまた泣いちゃいそうだ。


「安西さんのおかげだな」


そういう台詞、軽く言わないでほしい。そんなふうに優しく笑って、そんなことを言われると、気持ちが爆発してしまいそうになる。

もうそろそろ限界なんだよ、わたしだって。


「……あの。2位入賞も、自己ベスト更新も、おめでとう、本城くん。おめでとうっ……」


それと、好きです。はじめて見たときから。

もう心のなかでは何万回も唱えたその台詞を、わたしはきょうも言えずに、ただ涙を流すだけ。