そうこうしているうちに、周りがだんだんざわつき始めている。ああ、なんだか緊張してきた。
もう少しで始まるのかな。本城くんは、いまどこで、なにをしているんだろう。
こんなふうになにかのスポーツの大会を見に来るのははじめてなので、勝手がまったく分からない。
そもそも陸上のインターハイは毎年いろいろな場所で開催されているらしく、今年はたまたま近くだったからラッキーだと本城くんが言っていた。
わたしもラッキーだ。こうして彼の大切な日を見届けられるなんて、わたしはきっと、運がいい。
「あんこっ。もうちょっとで始まるってよ!」
えっちゃんに肩を叩かれてはっとした。同時に変な汗が噴き出したような気がした。
目の前に広がる茶色いトラックに目を移すと、さまざまな色のユニフォームを着た選手たちがわらわら歩いている。
「……お? あれ、本城じゃね?」
ちーくんがこぼした一言に、心臓が跳ねた。どれどれ、と身を乗り出すえっちゃんに、彼がひとりの選手をまっすぐ指さす。
すぐに分かった。でも本当は、ちーくんが言うよりも先に見つけていた。青と白のユニフォーム。ゼッケンの番号は261。
本城くんだ。そういえば、ちゃんとしたユニフォーム姿ってはじめて見る。
遠くから見てもかっこいいよ。やっぱりきょうも世界一だよ。
「ど、どうしよう……緊張してきた……」
「もう、あんこー。こっちおいで、ほらほら」
えっちゃんがぎゅっと抱き寄せてくれる。そしてそっと、その白くて美しい手のひらを重ねてくれる。
彼女の手のひらの下にある両手は、自分でも驚くほどに震えていて、ちょっと情けない。