「――安西さん!」
「へっ!」
本城くんがやって来たのはそれから20分ほど過ぎたころ。言われていたよりも早い到着だったので、まだ心の準備ができていなくて、変な声が出てしまった。
彼はTシャツにジャージを着て、自転車に乗っていた。
「急にごめん。まさかずっと外で待っててくれてた?」
「ううん、大丈夫! それよりびっくりした。どうしたの?」
「や……べつにどうもしないんだけど、いよいよあしたかと思うと落ち着かなくて」
正直、驚いた。本城くんにとって全国大会は特になんでもないイベントなんだろうな、なんて勝手に思っていたから。
でも、そうだよね。本城くんだって人間だもん。全国大会なんてそりゃあ緊張もするし、落ち着かないに決まっている。
いつもより少しこわばっている気がする横顔を見上げて、胸の奥がきゅんと鳴く。雲の上の存在だと思っていた彼を、なんとなくこないだよりも少し近くに感じられた。
「……安西さん、自転車乗れる?」
「えっ、自転車? えっと、うん……たぶん人並みには乗れるよ」
「そっか。じゃあちょっと付き合ってもらいたいんだけど、いい?」
そう言いながら、彼は握っているハンドルをわたしのほうに向けた。その大きな手のひらを見て、またどきどきした。
「走る」
はい? いま、なんだかとてつもないことを言われたような気がするのだけれど、気のせいかな?
「隣で走ってほしい。きつくなったら遠慮なく言って」
いったいなんなんだろう。目がちかちかする。
それでも、言うやいなや地面を蹴った彼に置いていかれないように、あわててサドルにまたがった。
地面に足がつかない。そりゃそうか。本城くんとわたしでは、悲しいほどに脚の長さが違いすぎる。