『いまから? 本当に?』
我ながらなんて情けない返事なんだろうと思う。会えるよ、会いたい、と即答できたらいいのに。どこまでも臆病で小心者な自分に、そろそろ本当に嫌気がさす。
既読はものの2、3秒で付いた。そして、画面を閉じる間もなく、返事はきた。
『うん。迷惑じゃなければ、会って話せないかな。』
これはいったいどういう意味なんだろう?
本当はいますぐえっちゃんに電話したい。こういうときはどうするべきなのか、教えてほしい。
でも、いつまでもえっちゃんに甘えてばかりじゃダメだと思うから。わたしに必要なのは、あと少しの勇気と、大胆さ。ちゃんと分かっている。
だから、震えたままの指先で、一生懸命画面をタップした。
『うん、大丈夫だよ。どこに行けばいいかな?』
『俺が行くから安西さんの家のだいたいの場所教えてほしい。』
本気の本気で言っているのかな。画面でのやり取りは顔が見えないから、どうしても不安になってしまうよ。
いま本城くんは、どんな顔をして、どんな気持ちで、これをわたしに送っているんだろう。
だいたいの場所と言っても、特に目印になるような施設もないので、そのまま自宅の住所を送った。すぐに『ありがとう、たぶん30分後くらいにつくと思う』と返事がくる。
本当の本当に本城くんが来るのだろうか。もしかしてわたし、からかわれてる?
本城くんが来るまでの30分のあいだに死ななければいいな。そんなバカげたことを思うくらい、心臓はばくばく暴れている。
ああ、どうしよう。落ち着かない。
「お母さん! ちょっと出かけるね!」
「どうしたのー?」
「ちょっと! いろいろとあって!」
いてもたってもいられなくて、リビングのお母さんに声をかけて、外に出た。オレンジ色と紺色が混ざる西の空があまりにもきれいで、涙が出るかと思った。