花束を持っている。
ということは、今日初めてここに来たということだ。
もう社会人で忙しいだろうから、1日に何回も足を運ぶということもないだろう。
「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
「そう?……あっ」
思い出したように鞄を漁り、銀色のジッポライターを出す。
それを受け取り、掌の上で転がす。
「もしお父さんに会ったら、これ返してお礼言っといてもらえる?」
「お礼?お父さんって、あたしの?」
彼女はあたしの親が離婚したことを知っているのになんでそんなことを……。
っていうか何だこれ。いや、ライターってことは解る。
「そう。先々月来た時、ライター忘れちゃって、先に来てたお父さんが『これ使うといいよ』って貸してくれてすぐに帰っちゃったから、返せなくて。先月来たのは夕方だったから、会えなくて」
「ちょっと待って、ミユちゃん。ミユちゃんがいつも朝早く来てくれてるんじゃないの?」