「敵が多すぎるからなあ、」
斎は困ったように口元を緩ませながらガシガシと自分の髪を掻いた。
「敵なんていませんよ」
あたしがそう言っても斎は納得しないようで。
「お前は分かってない」
と、安心させるつもりが逆に怒られてしまった。
分かってないとはなんだ。あたしは斎が好きで好きで仕方ないんだから、何も心配することなんてないじゃないか。
「例えばお前、遊哉に迫られてみろ。逃げられる自信はあるのか?」
斎に怖い顔をされて暫し考えてみる。橘君に迫られたら……?
さっき斎に手首を掴まれたことを思い出して思わずゾッとしてしまった。
ピクリとも動かなかった自分の身体。……百パーセント逃げられない。
「無理、です……多分」
「多分じゃない絶対だ」
う……。
でも橘君は私が嫌がるようなことをするような人じゃない。それは斎だって十分知ってるはずだ。
「大丈夫です!橘君はそんなことしません」