ある日のこと。あたしは櫻田君の部屋の前で途方に暮れていた。
≪これ、櫻田の忘れ物なんですけど、もし宜しければ届けて下さいませんか?≫
と、紳士モードの松神先生に頼まれ、あたしは櫻田君の忘れ物の眼鏡を持って彼の部屋を訪れたというわけだが、困ったことになってしまった。
「うーん……寝ちゃってる、とか?」
3回目の呼び出し音を鳴らすも、変わらず応答なし。どうしよう……。
「蒼空ー?湊の部屋の前で何してるの?」
ふいに後ろから声がして振り返る。見れば遥登君が不思議そうな顔をしてあたしのすぐ後ろに立っていた。
「遥登君」
もしかしたら櫻田君の居場所を知ってるかも。そう思って、あたしはざっくり事情を説明した。
「あーなるほどね。でもごめん、実は僕も湊を探しててさ」
「え、遥登君もですか?」
遥登君は困った表情を浮かべながらガシガシと頭を掻く。遥登君も探してるってことは、やっぱり部屋にはいないみたい。
「湊、最近この時間になるといつもいないんだ。どこ行ってるんだか」