彼氏ができたからって離れてもらっちゃ困る。
「蒼空……」
「そうですよね、橘君。それとも、もうあたしのことなんて嫌いになっちゃいましたか?」
それなら仕方ないけれど。
「っ、」
不意に影があたしを覆う。頬を赤らめた橘君が見えたかと思うと、次の瞬間にはきつく抱き締められ動けなくなる。
「嫌いになんてなれるかよ……」
か細い声が耳を伝い心臓を高鳴らせた。
「だったらあたしも同じです。だから心配しないで下さい」
橘君の背中に腕を回し、ポンポンとあやすように手を動かす。
全く心配性なんだから。……なんて、本当は凄く嬉しいけど。
「……さんきゅ、蒼空」
「……はい」
大丈夫って言ったのに、結局橘君はあたしの部屋までついてきてくれた。
扉の前でありがとうございます、と頭を下げるとどうしてか橘君は緊張してるみたいに目を逸らして。
「……おやすみ」
ちゅ、と。
橘君がバタバタと自分の部屋に戻っていった後も、あたしは口付けられたおでこを押さえながら暫く動けないでいた。
Fin.