きょとんと目を丸くするあたしを置いて、橘君はスタスタと教室に入っていく。あたしも慌ててその後に続いた。
電気も付けずに窓際まで歩いていった橘君は、そのまま空を仰いでため息をひとつ。
「……なあ、蒼空」
教材を机の中から取り出してから、あたしは背を向けたままの橘君に身体を向ける。
「はい」
「俺ら、何も変わらないよな」
やけに大きく反響する彼の声。その言葉を聞いた瞬間、あたしは全てを理解したような気持ちになった。
橘君が今何を考えているのか、何となく分かる。
「変わりませんよ、何も」
「っ」
橘君と同じように窓際に立ち、彼の手を両手で包む。橘君は少し驚いた表情を浮かべながらあたしの顔を覗き込んだ。
「あたしと橘君って、そんなに脆い関係でしたっけ?」
そんなはずないよね、あたしたちは。
「何があってもあたしは変わりません。斎も橘君も、それから遥登君も櫻田君も……みんな大切な人なんです」