雛生は思い出して、志臣に刀飾りを渡す。あの市場で買ったものだ。きらりと太陽の光を反射して、硝子が揺れる。

「どんなとこいっても、帰ってこれるように、って意味なんだって」
「ありがとう」

そういいながら、志臣はその剣の柄に雛生がくれたそれをくくりつけた。男性のものにしては繊細な細工だが、線の細い、少し中性的な印象を受ける彼には似合っていた。

「雛…」

もう一度、名前を呼ばれ、雛生は志臣と目線をあわせた。ゆっくりと顔が近づく。雛生も了解して目を閉じた。

静けさをきるように、部屋の扉が開け放たれた。恐る恐る目を開けると、莉津、明乎、空平の三人が扉の外に立っていた。雛生はわなわなと肩を震わせる。莉津は目を閉じ、手を顔にやり、見ていません、と表したが、
「主上ー、鍵閉めないと!」
「そうですよーう!ていうか、お二人とももう時間ですよ!早く準備してください!」

莉津のような態度を取られてもこちらとしては気まずいのだが、明乎と空平の対応も腹が立つことこの上ない。

雛生は真っ赤になりながら、志臣を突き飛ばした。
「お願いだから!全員でてって!」

ー…