おれの前から、いなくならないで…

と志臣の声が消えそうなほど小さくなる。おれの我が儘だけど、といって弱々しく笑った。

「志臣…」
「まあ、好きでもない男に抱かれる、しかも拒否られた雛の苦痛に比べたら、全然…」
「好きでもないなら、こんな風に、ならないわよ」

目を合わせずに、体を丸めながら、雛生は小さく呟いた。志臣は目を大きく見開いた。今まで見たなかで一番間抜けな顔だと思った。今度は雛生が笑う番だった。なんでそんなに驚いてるのよ、雛生は笑いながら、出てきた涙を拭った。

「嫌われてるかと…」
「なんで?」
「最初に優柔不断で、なよなよした男は嫌いだっていった」
「馬鹿…、あのね?人の気持ちは変わるの。…だから…」

志臣は雛生に優しく口づける。続きの言葉はもう望んでないようだった。

「こういうことで大丈夫?」
「あってる…」

緊張はまた高まって、そう答えるのが限界だった。雛生が志臣を見つめ、言う。

「もしも、あなたとそうなることが無理だと言うのなら、あなたも、私と一緒に生きる道を、術を探して。我が儘を通せるだけの強さを得られるようになろう…?」

もう一度、雛生は志臣を確かめるように口づけた。雲で隠れていた月が姿をあらわし、窓から月明かりが射し込んだ。