「で、僕の名前は彰榮(ショウエイ)…君は?」
「雛生」

雛生は短く答える。
それにしても、北蘭州…梛枝村だなんて、聞いたことがない。
一人で戻れるわけないし、迎えを待とうにも、私は飛ばされたのよね…

自分が今居る場所を知るわけないし、伝えようもない、どうやって帰ればいいんだろうと雛生は途方にくれる。

「眉間に皺が寄ってるよー。ほらほら僕がつくった美味しい御菓子でも食べて、ゆっくり休みなよ」

彰榮はぐりぐりと雛生の眉間を押す。

「お兄ちゃんっ!!御菓子の押し売りするなんて可哀想よ!!彼女困ってるじゃない」

室の扉を開け放って入ってきたのは、茶色の髪を後ろでまとめた、快活そうな彰榮とよく似た女性だった。

「起きたのね!!良かったわ。…あの病かと思って不安になっていたところなのよ、あ、私は彰綺(ショウキ)、よろしくね。兄が五月蝿かったでしょー。御菓子作りが好きでね、誰それ構わず出そうとするもんだから、困ったものでねー、あ、味は身内贔屓なしに美味しいからだいじょ…ぶぇっ」

「彰綺、雛生さんを困らせているだろう…。なんでお前はそんなに口が達者なんだー?もっと慎ましく可憐に育って欲しかったね」

彰榮は彰綺の頭を殴る。