この宮に、四季というものは存在しない。
たとえどんなに宮の外で、日照りや冷害、洪水、それらのせいで飢饉が起きようと、能天気にいつでも気味悪いぐらいの美しい花々が咲き乱れ、穏やかな天候に恵まれる。
外の四季はもちろん不利益を与えることはあるものの、霞榴国が傾かないのは天神楽の恩恵といえよう。


「糞食らえだわ」


「は、今なんと…」

ぽそり、と口から零れでた一言に雛生に講義をしていたお偉い、そう、頭がつるりと光を受け輝く、平たく言えば、禿げている先生が目を点にする。

雛生の隣に控えていた、女官の莉津(リツ)はきっ、と小動物のような丸い目を心なしか吊り上げて睨む。紅に属する莉津は長い薄緑の髪を横であみ込み、まとめている。賢く、機転もきき、器量も良い彼女はいろんな男たちからよく口説かれているのを目にする。
莉津には意中の男性がいる、とかならず断っている。

わかったわよ、
雛生はため息をついて、先生に笑う。

「いえ?なにも。続けてください。まだ私には解らないことが多すぎて、先生の話はとてもためになりますから…」


少しおだて上げると、そうですか、と先生は満足そうに話を続ける。

ああ、本当にくだらない。
今度こそ気づかれないように雛生はため息をついた。